まだヨーロッパの女性がコルセットに苦しめられていた時代に、当時の常識を遥かに超える発想で作品を発表して様々な壁を超えて行ったシャネルの人生は、何本もの映画になっています。実話ベースでは『ココ・シャネル』(2008年)、『ココ・アヴァン・シャネル』(2009年)、『シャネル&ストラヴィンスキー』(2009年)があります。未見ですが、最新作はドキュメンタリー『ココ・シャネル 時代と闘った女』です。若い頃を中心にするか、晩年にフォーカスするか、一つの恋に焦点を当てるかで、それぞれの作品の視点が違うし、演じる女優の演技もまったく違っているようです。フィクション3本はほぼ同時期に日本公開されたため追い切れず『シャネル&ストラヴィンスキー』は見損ねて内容がよくわからないのですが、なんとマッツ・ミケルセン共演!それを知っていたら絶対観たのに。


 さて、なぜ今シャネルかといえば、もちろん三菱一号館美術館で『ガブリエル・シャネル展』(9/25まで)が開催されているからです。



 シャネルの象徴のひとつといえば〝シャネル N°5〟が浮かびます。あのマリリン・モンローがベッドでは何を着ていますか?と聞かれて、「シャネルN°5だけ」と答えたという逸話で一躍世に知れ渡ったようで、私でさえ子供の頃、知っていたくらいです。その彼女の原点であるファッションを通して、時代、そして変わりつつある女性の生きた背景がわかる展示でした。


 女性の意識を変え、斬新なアイデアを打ち出していったシャネル。意外な素材で新しい製品に取り組み、またアクセサリーや服装品を職人たちとの連携で新しい試みに挑戦して生み出していたこと、そしてビジネスマンとしての側面も垣間見ることができ、服をデザインするだけではなかったのですね。


 反対意見があっても信念を曲げなかった頑固な一面は、仕事のクォリティでも妥協しなかったのがわかります。彼女のデザインに応えた裁縫師や彫金師などの技術者の存在を改めて知ることができたのもよかったです。それに実際に当時の有名人が着た彼女の服も展示されていて、その服を身に纏って活躍した姿が何だか浮かんでくるような気がしました。


 ファッションは20年周期くらいで繰り返されると言いますが、今着ても違和感のない普遍的なデザインの〝シャネルスーツ〟はやはり別格でした。観終わってみると単なるファッション展というだけでなく、シャネルの生き様や当時の社会をも少しわかった展示でした。途中にシャネルのサロンの鏡を再現した部屋で記念写真を撮ってもらうこともできます。