〝鴨居玲〟を知っていますか?


 赤い色が大部分を占めるポスターに惹かれて近づいて確認したのですが、まったく知らない名前の画家でした。


 私は2015年に東京ステーションギャラリーで開催された『没後30年 鴨居玲展 踊り候え』で初めて知りました。赤い画面に佇む一見ピエロのように見える何とも言えない表情の人物が気になって、予備知識もないまま観に行きました。何か声を出しているような人物画が印象に残っています。決して明るい気分にはさせてくれない、その暗い雰囲気の漂う画面の中には見えない何かが潜んでいるような、少し怖い気もするのに目が離せない。このときはもう亡くなっている昔の画家だろうと、彼自身について知ろうと思っていませんでした。


 その鴨居玲の展覧会が、ちょっと小規模ですが新宿の繁華街にある中村屋サロン美術館で開催中です。『鴨居玲展 人間とは何か?』(12/4まで)



 この美術館があるのことは以前から知ってはいましたが、ビルの中にまで入ったことはなかったのでちょうどいい機会だなと新宿通沿いの中村屋のビル3階に行ってみました。普段からとても人通りの多い新宿の大通りに面したこんなところに美術館があるなんてあまり知られていないかもしれません。


 入場料は500円で1年間有効のパスポート(1000円)なら同伴者1名まで無料で入館できるようです。


 この料金からたいした展示数ではないと思っていたのにけっこう多くて、しかも彼の描いてきた変遷が初心者でもわかる構成になっていたので見応えがありました。


 人物画、自画像を多く描いているようですが、どれも陰のあって彼が最も心穏やかに過ごせたというスペインで描かれたものも南欧の明るさより、フラメンコに感じる悲哀のようなものが全面に表れているようでした。


 勝手にずっと売れない絵描きというイメージでしたが、経歴を読むと実は生前から人気の画家なのがわかり、絵を売買する世界というのがあるのだなという考えが浮かびました。しかしながら、何か訴えるような悲しい雰囲気の作品を観る限り、居間には飾れない気がしたのでどんな人が買っているのだろうとも思いました。空に浮かぶ教会というモチーフの作品群は飾れそうでしたが。


 会場で映し出されていたビデオで本人を見ると、私が思い浮かべる〝画家〟とは程遠く、がっしりとした体格で堂々としていたので自殺願望があった人物には見えませんでした。でも自分の中から作品を生み出すというのは、凡人には計り知れない葛藤や喜び、苦悩が伴うものなのでしょう、57歳で自死してしまうほど。