2014年に三菱一号間美術館で開催された『ヴァロットン—冷たい炎の画家』で、ヴァロットンという画家を知りました。その時は油彩画(約60点)中心の展示でした。



 19世紀末のフランス・パリで活動したそうですが、散々この時代の画家の展覧会を観てきたのに、全然記憶にない名前。いや、たぶん作品は何かしら目にしていたはずでも、意識しないと何も頭に入ってこない典型的な体験だったのでしょう。なので逆に新鮮でした。その簡素な画面構成の作品のポスターを見たとき、もっと後の時代の画家だと思って観に行ったのですが、印象派のセザンヌとかモネらより次世代のナビ派だということでした。


 さて、今開催中の『ヴァロットン―黒と白』(1/29まで)は、世界有数のヴァロットン版画コレクションを所有する三菱一号館美術館が満を辞して大放出した美術展です。



 ということで、今回の解説でやっとヴァロットンは版画で一躍人気者になったというのを認識しました。

 展示の仕方もとてもおもしろいが工夫してあって、見て回るのが楽しかったです。スイスから画家を志してパリへ来ましたが、食い扶持を稼ぐための挿絵の仕事が評判になり、風刺的な人物画だけでなく、その時代のパリでの出来事を簡素な線で、一見のどかに見えるのに深い意味が隠れている作風。同時代のロートレックと同じような情景を描いた作品が並べられていましたが、まったく別の意味合いを感じさせるのがとてもおもしろかったです。

 彼の代名詞と言えるそのモノクロの木版画作品は、日本の小村雪岱、竹久夢二の一色の挿絵画に近いわりと太く簡素な線ですが、描かれた内容はもっと生々しい印象で、構図の切り取り方が独特でした。


 代表作の連作〈アンティミテ〉〈楽器〉〈万国博覧会〉〈これが戦争だ!〉が揃っていたのも素晴らしかったです。特に〈アンティミテ〉は彼が上流階級の女性と結婚してからの作品で、貧しい下層階級とは違う世界を垣間見た彼の視点が鋭いです。



 1枚の黒と白だけの小さな画面の中の物語を観賞者が空想してしまう画面構成なので、サッと前を通り過ぎることができません。観れば見るほど、そこの隠された秘密を暴きたくなるようでした。


 最後の方に姉妹館提携を行うトゥールーズ=ロートレック美術館開館100周年を記念したロートレックとの特別関連展示もあったのもよかったです。