美大卒の友人とウィーン旅行に行ったとき、シーレにはさほど興味はなくクリムトの作品を観るのを楽しみにしていていました。でも、現地の展覧会で初めて彼の作品を観てから、クリムトとの関係とか彼自身のことにも目を向けるようになりました。


 日本で30年ぶりに彼の作品が50点集結した『レオポルド美術館 エゴン・シーレ展 ウィーンが生んだ若き天才』(4/9まで)が開催中ということで東京都美術館へ行ってきました。注目の展覧会なので日時指定をしないといけません。



 先日この展覧会を紹介した番組で、シーレ作品の印象から「精神的に危ない人だったのではないか」、「貧しく苦労したのだろう」と大抵の人は思っているという話になっていました。私も〝悲劇の画家〟と思い込んでいました。それが実はそうではなかったと山田五郎さんが解説。確かに彼を主人公にした映画『エゴン・シーレ 死と乙女』(2007)でそれほど裕福そうではなかったですが、絵を描き続けられる環境ではあったし、風紀を乱したということで捕まっても常に女性関係はいろいろあったようですし、若くして病死という点をあげるなら確かにそうですが、作品を評価してくれる人々には恵まれていたようです。



 独特の描写と色彩で印象に残るエゴン・シーレ。ウィーン世紀末の美術界で大いに注目され、まさにこれからさらなる飛躍があると思われた若き天才画家はスペイン風邪であっけなくわずか28歳で死去。クリムトもスペイン風邪がもとで亡くなり、ウィーンの美術界の中心に若くして躍り出たのに、彼もまた同じ年に生涯を終えてしまったわけで、結局はそれがオーストリア美術の終焉でもあったというのが感慨深いです。


 シーレの天才ぶりやクリムトとの師弟関係というのもちゃんと把握していませんでしたが、今回の展示で彼自身のことやウィーンでの立ち位置もわかって、絵の背景を知ることができましたし、人物以外の作品も観れてよかったです。


 シーレといえば独特の画風の自画像が浮かびますが、まさか100点以上も描いていたとは知りませんでしたし、ずいぶんポーズに拘った自身の写真も多く残していたとは思いませんでした。


 異例の16歳で名門の美術学校に入学した頃から、よくあるようにアカデミックな作品を強いられるのがいやで退学してクリムトのもとで学んでその影響を受け、やがてオリジナルの画風を確立していくというのがわかる作品展示構成でした。油絵ももちろん素晴らしいですが、デッサン力の凄さが感じられるスケッチも思わず見入ってしまいました。


 またクリムトの風景画や同時代の画家の作品も展示されていて見どころが多かったです。ちなみに美術学校に彼を入学させた先生はのちにあのヒトラーを不合格にしたそうです。つい〝if〟の物語を考えてしまうエピソードですね。