これまでもルーブル美術館が所有する作品は何度も日本で展示開催されていますが、今回は国立新美術館で『ルーヴル美術館展 愛を描く』(6/12まで)と題して、16世紀から19世紀半ばの作品が全73点来ています。実はこの作品群の画風はあまり好みではないのですが、たまにはアカデミックなものも鑑賞しようと行ってみました。するとこれまで物語の一場面としてしか観ていなかったのが、ジェンダーについての考え方というのが浮かび、また当時の人々の価値観や社会通念などをちょっと考察できたのが意外でした。やはり時代によって価値観などは変わるのだなと思えたおもしろい展示構成でした。



 誰でも知っている目玉になる作品を売りにしているわけではないので、さして混んではいないだろうとたかを括って行ったのですが、これが予想に反して平日なのに結構賑わっていました。ちなみにここの美術館は基本的に当日券でも入れます。


 西洋社会のさまざまな愛の概念を描いた作品という視点で集められ、それらはそれぞれの時代に主要だった画家によるものだったので、ほとんどは知らない名前でした。でも、過去に観てきた神話を描いた作品も〝愛〟と〝ジェンダー〟という点から解説を読みながら鑑賞すると当時の人の視点に立ててこれまでとはちょっと違う感想を持つことができました。


 〝愛〟をテーマにしているので、イメージカラーがピンクで、神話が題材だとかわいい天使が飛び交い、微笑ましいイメージですが内容は結構ハードです。人間よりもずっと愛に自由な神話の世界で神は気に入った女性を無理やりさらい、女性は魔力を使って男性を誘惑するというような場面が好んで描かれたのは、実は人間の〝欲望〟を描いていたようです。昔はギリシア・ローマ神話の神様たちの世界なら裸体を描いてもよかったというのもあったでしょう。


 またキリスト教関連になるとマリアと幼子などの聖家族や放蕩息子を迎える父親といった有名なエピソードを題材に〝慈愛〟が描かれ、市民が主流になった時代のオランダでは上流階級から庶民の〝男女の恋愛模様〟が風俗画として描かれるようになっていったという流れで見ることはできました。


 若い人から年配までいろんな年代の人たちで、みな熱心に鑑賞していました。結構神話についての解説もあるので、今後別の西洋絵画の読解に役に立つと思いました。


 この展示だけではなく、国立新美術館の小企画パブリックスペースを使った「ねずみっけ」というアニメーションが展開中なので、地下鉄から上がる階段や建物の吹き抜けの壁など会場のあちこちに見つけるとちょっと楽しい気分になる仕掛けもあります。(5/29まで)



 ところで唐突ですが、ルーブルつながりということで言わせていただくと私の〝推し〟は「歩くルーブル美術館」という異名を持っています。