なんとなく〝ブルターニュ〟というのは田舎町のひとつだと思っていました。


 今開催中のそれが『憧憬の地 ブルターニュ―モネ、ゴーガン、黒田清輝らが見た異郷』(6/11まで、国立西洋美術館)の会場に掲げられていた地図で、太った星型みたいなフランスの突き出た部分だったのを知りました。どこに誰が行ったかも記されていて、多くの画家が訪れていたのがわかります。展覧会告知のメインビジュアルに使われているゴーガンだけでなく、ゴッホやミュシャにターナーまでも訪れていました。



 何がそんなに彼らを惹きつけたのか。当時ピクチャレスク・ツアーという英国から始まった地方の風景に美を探す旅が流行して、ブルターニュ地方のレンヌとパリを結ぶ鉄道開通したことで行きやすくなったというのがあったようです。チューブ入り絵具が登場して、屋外で製作できる環境があって、そうしたなか新しい表現を生み出していった画家たちがこのブルターニュに来てそれぞれの作品を生み出していったわけですね。


 特に興味深かったのはゴーガンで、これまでも作品はたくさん観てきたつもりでしたが、これまで見たことのない画があって、日本で人気の印象派のスタイルから次第に独自の画風を確立していったのがわかりました。


 ちょっとびっくりしたのがミュシャで、伝統的な民族衣装コワフ(頭飾り)の女性の作品は初めて観ました。ターナーもてっきり英国とローマくらいしか行ってないと思っていたのですが、みんな結構フットワークが軽かったのですね。旅行好きではないルドンでさえ5回訪れたそうです。避暑地として別荘を持っていた人もいたそうです。



 日本で言えば大正時代ですが、大勢の日本人画家が思っていた以上に訪れていたのにも驚きました。知らない名前もありましたが、黒田清輝や藤田嗣治もこの地での作品を残していて、日本人画家コミュニティーみたいのがあったようです。作品の他に「KEEP FRONT」のシールの貼られた藤田の鞄も展示されていました。


 音楽でもこの地に残るイスの都の伝説からドビッシーは曲を書いたそうで、多くの芸術家を刺激したところだったのですね。


 新しい芸術が次々と生み出された背景とゴーガンなどの画風の変化もみることができて、おまけに絵を観に来て、地理の勉強もできるなかなか面白い展示でした。


 もうひとつ『ブルターニュの光と風』(〜6/11)というこれもまたブルターニュに集った画家の作品を集めた展覧会が新宿のSOMPO美術館で開催中。学芸員によるとまったくお互いの展示を知らなかったそうですが、偶然同時期にゴーガンなどの作品をたくさん観られるわけですね。