とにかく大好評で、事前予約チケットの争奪戦は人気アイドルのコンサートに匹敵するくらい瞬殺でソールドアウトになった東京都現代美術館で開催されている『クリスチャン・ディオール、夢のクチュリエ』展。



 パリ、ロンドン、ニューヨーク、上海、ドーハなど世界を巡回してきた回顧展です。当日券で観てきた友人の話を聞いて、これは絶対観に行った方がいいと何人かに声をかけたところ、近くに住む一人が早朝並ぶのを買って出てくれました。


 これまで生み出された作品が歴代のデザイナー別に展示されているだけではなく、創始者であるクリスチャン・ディオールと日本との絆を称えるよう再考案されていて、服とその時代背景をも知ることができました。



 戦後、女性の洋装化は男性よりかなり遅かったのが、美智子様の婚約発表時着用のディオールデザインのドレスがきっかけのひとつだったとか、当時日比谷にあった帝国ホテルでファッションショーが開かれて注目を集め、一気に洋装の女性が増えていったのは知りませんでした。今のように手軽に買えず、洋装店で注文するか自分で縫うかしないといけない時代だったので、看護婦や電話交換手より自立度の高い服飾関係の仕事は女性の人気になっていったようです。銀座の洋装店では欧米の最新ファッション誌の写真から注文を受けたりするので、店によっては立体裁断という手法で仕上げていったそうです。そういう洋服の製作過程を見たことのない人には、マチ針や仕付け糸がついた未完成な状態の白いプロトタイプがそびえるように並んでいる部屋で少し知ることができます。その部屋に入った途端、思わず声が出るほど美しかったです。



 彼のデザインには子どもの時に行ったパリ万博で見た影響があるそうで、かなり〝日本〟を取り入れた作品があったのには驚きました。今のディオールのデザイナーも日本の要素を取り入れていました。


 また美術館収蔵の絵画や日本人写真家による撮り下ろし写真、アーティストたちが手掛けたバッグ、千枚ものスカーフで作られた作品や波打つような和紙で構成されたり、切り紙アーティストによる白いツタのようなオブジェで天井が埋め尽くされ空間など至るところで様々なアーティストとのコラボも楽しめます。圧巻は広い吹き抜けに並べられたマネキン。それと歴代の香水のCMとコロナ下にファッションショーの代わりに制作されたまるでファンタジー映画のような映像も上映されていました。


 ファッションに興味がなくても十分楽しめることができるので、ぜひ頑張って朝8時までに当日券の列に並んでください。土日は20時までやっているそう。チャンスは5/28までです。


 そして、ディオール全面協力のおすすめ映画『ミセス・ハリス、パリへ行く』(2022)、『オートクチュール』(2021)の主人公はデザイナーではないのですが、それぞれブランドを支える裏方の人たちの矜恃がよくわかる作品です。ついでに洋服の仕立てを題材にした『テーラー 人生の仕立て屋』(2020)、『繕い裁つ人』(2015)というのもおもしろいです。