ここのところファッション業界の美術展というのがよくありますが、今開催されているのは『イヴ・サンローラン展 時を超えるスタイル』(〜12/11・国立新美術館)。大反響だったクリスチャン・ディオールの展覧会ほど込んではいませんでした。



 ディオールはサンローランの師匠です。19歳で彼の元で仕事を始め、ディオールの急死によりチーフデザイナーになったということからわかるように大変な才能があったわけです。身近で大量生産の既製服よりお洒落なプレタポルテ(高級既製服)を生み出したのがサンローランだったそうで、日本の高度成長期に彼の活躍が重なっているのでファッションに興味がなくてもみんな彼のデザインをどこかで目にしているのではないでしょうか。


 〝ディオール展〟では遥か彼方の世界の豪華で眩い光を放つアートとしてのファッションの変遷を見せてくれました。でも〝イヴ・サンローラン展〟はかつて身近に見ていたようなデザインのものだったので、親しみを感じました。サンローランは女性たちの声に耳を傾けてプレタポルテ(既製服)を広めたそうで、もちろん気軽に買えるものではないですが、その要素がおそらく取り入れられて私の視界にも入ってきたのでしょう。


 発表された時代順に並べられた作品を見るとこんなのがそういえばあったなと思いました。1965年の有名なモンドリアン・ルックや80年代に発表されたピカソ、マティスにインスピレーションを受けたデザインやさまざまな国の民族衣装をモチーフにした作品、紳士服を女性向けにしたピーコート、パンツスーツなどきっとその時代の女性たちが楽しんだことでしょう。


 それらを観ながら、まださすがにそれらの服を着こなせる年代ではなかったのになぜか親近感を感じたのは、どうも少女マンガに起因していたようです。


 70年代に一条ゆかり『デザイナー』(1976)をはじめ、ファッション絡みの話がよくありましたし、登場する女の子の衣装もどれもかわいらしかったのは、当時の最新流行に敏感なマンガ家たちがどんどん取り入れていたからでしょう。


 服だけでなく、ためらいのない線でササッと描かれたスタイル画もひとつの作品でしたし、それからできあがった服が向かい合わせに並んでいて、形にした職人の腕の凄さというのも見ることができたのもおもしろかったです。服だけでなく彼が生み出した不機嫌な女の子のイラストというのも展示されていました。


 またパネルや写真で華やかな世界とその裏でサンローランが苦悩していたことや、いかに彼の才能がすごいというのもよくわかりました。


 彼については、サンローラン自身がモデルになれるほどの美貌の持ち主だったのも人々に注目される要因のひとつでしたから、もちろん映像作品もいくつかあります。


 ドキュメンタリー『イヴ・サンローラン』(2010)、映画では公式が認めた『イヴ・サンローラン』(2014)、そして認められていない『サンローラン』(2015)。映画は脚色部分もありますが、彼を取り巻く世界、人々を観ることができるのがいいです。



 アート色の強かったディオール展とは違って、70〜80年代の自分の記憶を呼び起こす実物の服の展示は、いろいろ連想できて楽しかったです。