初めてその名前を知った時、てっきりイタリア人アーティストだと思ったムットーニ。彼の電動式からくり人形作品というものをいつか実際に観てみたいと思っていたのですが、やっと対面することができました。


 以前通りすがりのギャラリーで見た覚えがあるのですが、それは動いていませんでした。やはり〝電動式からくり人形〟ですから動いていないと鑑賞したことにはなりません。存在を知ってから気にしてはいたのですが、なかなか巡りあえずにいました。先日八王子市夢美術館で『ムットーニワールド からくりシアターⅤ』という展覧会が開催されていたのですが、ちょっと遠いし、天気が悪いなぁとためらってしまっているうちに行き損ねてしまいました。それがたまたま検索で世田谷文学館でやっているのを見つけて、ここも多少遠いけど駅からは一本道で近いし、これを逃したら次はいつ出会えるかわからないので芦花公園の世田谷文学館まで『ムットーニコレクション』(〜3/31)を観に行ってきました。



 会場の少し暗くした一画に4作品が並べられていました。1時間おきに係の人がスイッチを入れ、1作品5分ほどのからくりを順番に観ることができました。その人形の動きは人形浄瑠璃の娘が夜叉に変身するほどの激しさはなく、朗読や音楽が心地よいものでした。この日上演されたのは「アトラスの回想」(中原中也)・「題のない歌」(萩原朔太郎)・「眠り」(村上春樹)の作品から着想された3つ。そして特別展示「クリスタル・チューナー」(個人蔵)。これは木製の昔のラジオがびっくりする形態に変化しましたが、流れる音楽とミラーボールの光が別空間を見せてくれて素敵でした。小さめの作品はあるコレクターがほとんど持っているというのを聞いたことがあるのですが羨ましいです。


 どれもゆっくりとしたからくりに惹き込まれて、まるで4本のショートムービーのようで思い切って観に行ってよかったです。


 メインの展覧会は『世田谷文学館コレクション展衣裳は語る──映画衣裳デザイナー・柳生悦子の仕事』で、これがまたとても良い展示でした。このデザイナーを知らなかったのですが、いくつもの映画の衣装を手掛けた方でした。世田谷文学館に寄贈された約3000点のデザイン画からの展示で、「若大将」などのシリーズに時代劇、戦争、SF、日本未公開の『Mishima』など100本以上のあらゆるジャンルの映画に関わっていた映画衣裳デザイナーの先駆者でした。


 私も観たことのある『敦煌』(1988)もそうでメインキャストは日本人ですが、出てくる人数もさることながら、大陸の様々な民族の服をすべて1人でデザインしていたのは驚きです。残されたデザイン画はとても細かくて、最近見たディオールなどのファッション画とは全然違いました。映画には様々なクリエイターが関わり、技術が注ぎ込まれているのだなとつくづく思いました。