1962年公開/148分/アメリカ/監督:ジョン・フランケンハイマー


<実話を題材にした『終身犯』>


テストパターンのあとに見た名画


 もう一度見たい映画は山ほどある。これもそのひとつ。アマゾンプライム会員の特典を生かして久しぶりに鑑賞した。終身刑で服役している男が鳥の研究で第一人者になる話である。歳を取ると暇にあかせて細かいことが気になりだす。どれくらい昔かと調べたところ、なんと半世紀以上だった。中学1年の秋である。九州の田舎育ちだから、もちろん見たのはテレビだ。「サヨナラ、サヨナラ、サヨナラ」の淀川長治さんが番組の最初と最後に登場する日曜洋画劇場である。


 世の中には同好の士がいて、各放送局の映画放送作品リスト一覧をアップしているサイトがある。運営者も、かつて見た映画の放映時期を調べて自分が歩んできた道を振り返っているのだろう。放映されたその年に、自分はいくつでどんな生活を送っていたのか。あれこれと記憶を呼び戻すのも年寄りらしく楽しい。しかし、放映された年月日まで記録されていて驚いた。


 20歳まで過ごした福岡では、民放のローカル局が3つあった。フジテレビ系列のTNC(テレビ西日本)は、昼下がりに名画を上映していた。カギっ子だった私は、小学校から自宅に戻るとテレビを付ける。どの局も午後の放送休止時間になると、会社のロゴを画面に映して音楽を流す「テストパターン」の時間だった。


 ある日、そのテストパターンが終わると、暗くて粗雑な画面が映し出されてきた。漫然と見ていると次第に夢中になり、最後まで鑑賞した。『無防備都市』というタイトルだった。夕食時にその話をすると、母は「それは有名なイタリア映画だ」と語った。


<TNCのテストパターン画面>


 テレビ朝日系列のKBC(九州朝日放送)は毎年夏の一時期、午後の時間帯に「日曜洋画劇場ベスト10」を企画し放映していた。前年に放映した同番組のなかからもう一度見たい映画を視聴者投票で選び、夏休みの午後に再放送するのだった。名作『終身犯』は1968年9月29日の放映だから、1970年のベスト10に入っていたはずだ。今のように録画ができない時代だから、見逃すと再放送を待つほかない。KBCのこの企画は洋画好きには堪らない企画で、毎年楽しみにしていた。昭和40年代のことだから、コンテンツ不足で洋画が重宝されたかもしれない。


 映画好きになったのも、幼い頃のこうした体験が土台になっている。九州のローカル2局が揃って洋画鑑賞に意を用いてくれたことに感謝しなくてはならない。中学生になると、新聞のテレビ欄の深夜時間帯を注意深く見て、映画のタイトルのようだとアタリを付けては夜更かししたり、「映」のマークがあると早く寝て深夜に起き出すこともあった。


ネビル・ブランドの演技が光る


 前置きが長くなった。


 主演のバート・ランカスターは古き良き時代のハリウッドの名優だ。筋骨隆々の堂々たる体格ながら、愁いを帯びた表情が知性を感じさせ独特の味がある。後年、イタリア映画界で重宝され、とくにビスコンティ作品では欠かせない役者だった。この映画でも寡黙で思慮深い役をこなしている。ワンテンポ遅らせた言い回しは意図的なのか、重厚な演技が光る。『家族の肖像』で見せた陰影のある演技に通じるものがある。


<テリー・サバラス>


 脇役陣もいい。独特の風貌で知られるテリー・サバラスが監獄仲間で出演している。『刑事コジャック』で人気を博した。しかし、今回見たなかで一番感銘を受けたのは、看守役のネビル・ブランドである。わが国では悪役で知られ、『アンタッチャブル』の放映でその顔に見覚えがある人もいるだろう。主人公のストラウドが敬意を払わないことに憤慨し、口論する場面は最も感動的なシーンである。境遇に同情し常日頃から便宜を図っている看守の怒りに遭い、ストラウドにようやくリスペクトの気持ちがよみがえる。映画のなかで重要なポイントである。


<ネビル・ブランド>


吹き替えはテレビ局が先導した?


 監督のジョン・フランケンハイマーは、どちらかといえばアクションなど娯楽作品を多く手掛けている。『フレンチ・コネクション』は代表作のひとつで、この映画のような社会派モノは少ない。いわゆる監獄ものは『パピヨン』など脱獄ストーリーがほとんどで、この映画のように長期間捕らわれの身になり、しかも無実の罪でもなく2人を殺した(1人は看守)主人公を描くのは珍しい。名作だけにリメイクが待たれるが、2003年ごろにブラッド・ピットが制作意欲を見せただけで実現していない。ブラピが演じるのもいいが、デ・ニーロやアル・パチーノにお願いしたい。ちょっと手遅れの感もあるが……。


<バート・ランカスター(1913-1994)>


 日曜洋画劇場は、そのほとんどが吹き替えである。バート・ランカスターは声優(俳優)の久松保夫が担当した。渋い声でならし、ハンフリー・ボガードの声で名高い久米明と並ぶ。このころはビデオがないから、吹き替えはもっぱらテレビ放映のためだけにあったと思われる。今ではDVDビデオ販売のために字幕・吹き替え両方を用意しなければならないが、昔はテレビ局がコンテンツを拡充させるために吹き替えを担った。今回は字幕で見たが、ベテラン声優の吹き替えも味わい深いものがある。(頓智頓才)