〝ベル・エポック〟という言葉の響きが好きなのですが、そこから19世紀末のパリに咲いた美しい徒花に群がった芸術家が連想されます。多くの画家が活躍した時代でしたが、彼らのまわりに集まって来た人々がどんな街灯の下、いかなる服装で何を楽しんでいたのかを知るには、その時代を題材にした映画で2次元タイムトラベルするのが最適です。近頃の映像技術はとんでもなく進化しているので、俳優たちや製作者たちが実際にちょっとタイムマシンでその時代へ行って撮って来たのかと思うくらいです。


 しかし、映画というのはさまざまに脚色されていて、こういう会話がされていたのではないか、彼らの関係は実はこうだったのではと創作されているわけですが、作品が描かれるに至った背景がいろいろ見えてきて想像できるところが面白いです。



 例えば、レオナール・フジタこと藤田嗣治について、パリで知らぬ者のいない人気の画家だったことは作品展の解説や当時の画家たちとの写真で知りましたが、狂乱のパリでの彼の立ち位置をオダギリジョーが演じた『FOUJITA』でようやく理解することができました。特にフジタのためのパーティーのシーンはアジア人の彼が異国でどれだけ人気だったかよくわかるものでした。



 また、画家や作家を含む多くの人々にインスピレーションを与えたロイ・フラーを描いた『ザ・ダンサー』では1枚の写真でしか知らなかった彼女の人生だけではなく、当時最新の技術があったから彼女の踊りがグレードアップしたとか、流行や世相も知ることができましたし、舞踏家として彼女より知名度の高いイサドラ・ダンカンとの関係も興味深く目が離せない内容でした。黒人コメディアンのショコラ(ラファエル・パディリ)が白人の相方・フティットとコンビを組んでパリの大劇場で人気を博していく様を見ることができる『ショコラ〜君がいて僕がいる』では、パリのエンターテインメントの裏側をも知ることができました。




 でも一番のおすすめはベル・エポックのパリをあらゆる角度から堪能できる『ディリリとパリの時間旅行』です。おそらく舞台はパリ万博開催中の1900年。当時のファッションや移動手段などがわかるだけでなく、あらゆるジャンルの著名人50人以上が登場し、彼らの年代や関係性の他に街並みや最先端の発明品に人気スポット、画家の作風までざっくり理解できます。そして今に通じる社会性のある問題にひとりの少女が立ち向かっていく大胆で爽快なストーリーがアニメならではの表現で楽しめる作品です。



 こうしてみると取り上げた映画の主人公はすべてパリに来た外国人だということに気がつきました。どんなバックグラウンドの人であっても才能を認め、称賛する気風がこの時代のパリにはあったわけで、これは今まさに私たちが取り入れるべきことなのではと思いました。


 そしてこれらでベル・エポックを予習すると、展覧会の見方が少し変わるのではないでしょうか。