果たして来年開催されるのかどうかまだわかりませんが、どれだけ多くの人がこの世界的イベントを心待ちにしているのでしょう。あいにく私はスポーツにあまり関心がないので、楽しみなのは開会式と閉会式のパフォーマンスだけです。でも、映画となると別。このイベントに絡む実話を元にした作品はいろいろ考えさせられます。
オリンピックでも差別問題はやはりあるものです。『栄光のランナー/1938ベルリン』(2016)は、NHKの大河ドラマ『いだてん』でも描かれたベルリン・オリンピックが舞台。ユダヤ人を迫害するナチスは、この大会でアーリア人の優位性をアピールするために国を挙げて力を入れているので、アメリカはナチスを認めることになると大会をボイコットしようという意見もあったなか、黒人の陸上選手が代表として、白人のコーチと共に米国民の応援を受けて臨むわけのですが、帰国後の祝勝会での彼の扱われ方に驚きました。Black lives matter運動が起こる最近のアメリカもいまだに当時と変わっていないのだと思いました。
選手の話ではありませんが、アトランタ・オリンピック開催中のテロに関連した話でクリンスト・イーストウッド監督の『リチャード・ジュエル』(2019)は、アメリカの抱える問題というより人々の立場や思惑が描かれて、引き込まれる内容でしたが邦題がイマイチでした。海外作品は人名をタイトルにするのはよくありますが、日本では無名の人物なのであまり話題になりにくかった気がします。
そして、まったく知らなかった歴史を紐解いてくれた『ミルカ』(2013)はシリアスなインド映画で、1960年のローマ・オリンピック代表になった国民的英雄ミルカ・シンの半生を描いているのですが、シク教徒の彼に降りかかる災難と走り続ける姿に胸を打たれました。
また、ずいぶん前に公開された名作『炎のランナー』(1981)のハロルド・エーブラムスはユダヤ人であるために受けてきた差別をオリンピックで勝つことで跳ね返そうとしていました。この作品のもう一人の主人公エリック・リデルのその後を描いたのが『最後のランナー』(2016)。これがかなり衝撃的でした。内容的によく日本で公開されたなと思いました。何しろ中国・香港・アメリカ合作なので、日本軍の残虐行動の描き方に忖度なし。製作に中国が入る第二次大戦絡みの作品は、日本で配給される割合が低くなるようなので、これも地味に期間限定公開でしたが何とか観れてよかったです。日本公開が危ぶまれていた『不屈の男 アンブロークン』(2014)は日本軍の捕虜になったベルリン・オリンピックの陸上選手だった米軍パイロットの体験を描いた作品で単館上映でとても話題になっていましたが見逃したのが残念。
最後は実話にかなりフィクションを交えているそうですが、何度観てもクスッと笑えて元気付けられる作品として『クールランニング』(1993)をあげておきます。これにも考えさせられることがありますが、ちょっと楽しめる作品ももっと増える世界になってほしいです。