今ミッドタウン日比谷になった高層ビル前の広場にかつて三信ビルという特に目を引くデザインでもない、むしろ無骨な外見のビルがありました。2階まで吹き抜けで内部のアーチが美しくて昭和の名建築と言われていましたが、老朽化で2007年に解体されました。地下鉄の出入り口としか通ったことがなかったので解体前に一度上に上がってみたことがあります。すでにほとんどの部屋は退去していたようで人影はありませんでしたから、ゆっくり2階の回廊から下を見ることができました。このビルについて詳しい人から聞いた話では、ここが建てられた当時天井に星座が描かれていたのが、のちに塗りつぶされたそうで、壊すならそこだけ剥がして一度見せてくれないかと思いましたが、そんなことにはならずにすべてなくなってしまいました。ただアーチ部分が今のミッドタウンの地下広場にかつての残像として再現され、遠目ではっきりとわからないですが、たぶんあの回廊のところどころにあった木彫の鳥が飾られています。でもこういう古い建物ファンには不評です。
そういう価値があるけど老朽化で取り壊されることになったビルを見る機会があって、そのひとつ、有志が企画した銀座の銀緑館(1931竣工)最後の見学会はすでにテナントは全部出てしまい、地下のBAR樽は電気も通っていなかったので、皆でライトで照らしながら当時を想像したり、特別にかつてあったテーラー銀座スコットの奥様が話をしてくださるという貴重な時間もあり、かつてのビルにまつわることを堪能できました。
もうひとつは神田小川町にあった出版社の明治書院の建物で、解体工事前に数日間だけ見学、及び残されたものを持ち出していいというものでした。レトロな電球カバーや木の机などほとんど先約札が貼られていましたが、小ぶりな机上用書類棚をもらってきて愛用しています。当日は記念に絵ハガキももらえるという今では考えられないおおらかなイベントでした。
また取り壊し予定のビルを再利用するアートプロジェクトというのにも行ったことがあります。その四谷のビルでは若い人たちの作品でエネルギーが充満した感じで、既成の美術館と はまったく違う印象を受けました。それと建っていた75年のうち最後の19年間を現代アートの発信基地となっていた食糧ビルの『エモーショナル・サイト展』(2002年)は最後の展覧会で、当時話題の作家たちの作品が多く展示されていて、当時あまり現代アートには行っていなかったのですが、いろいろみることができて面白かったです。
解体は仕方のないことですが、その最後にちょっと立ち寄ることができるのはおもしろい体験です。