広い空き地に一夜にしてテントが張られ、サーカスが現れるという非日常の極みといえる出来事です。


 ところが、新型コロナウイルスにより調教された動物ショーのない人間のみのパフォーマンスで魅せる新しいサーカス、シルク・ド・ソレイユが経営破綻してしまう日が来ようとは思ってもみませんでした。



 いつか彼らのパフォーマンスが復活する日を願ってやみませんが、サーカス以外にもいろいろあるもので、この儚く消えてしまう限定空間に居合わせられるのはとてもワクワクします。そう言えば、かなり大規模ですがオリンピックも期間限定ですが、建物が消えないのでちょっと意味合いが違いますね。


 さて、今の東京で空き地といえば、再開発でそれまであった建物がなくなり、次に建てられるまでの空間です。


 お茶の水界隈でしばらく前に大学などが移転して古い建物がなくなり、ずいぶん広い敷地がしばらくあった時、そこで『神田 TRANS ARTS TOKYO 2014』というアートイベントが開催されました。アートの展示だけでなく、巨大なバルーンを浮かべたり、設置されたテントに一泊するアーバンキャンプ・トーキョーホテル、まちかどツアーなどそれまであまり見たことのない街全体を巻き込むイベントの中心地になっていました。確か翌年ビールフェアが開催されたこともありました。



 空き地に期間限定の建物を建てるというのもあり、日本橋の再開発では今のCOREDO室町が建設される前にプラネタリウムが出現しました。その頃プラネタリウムは画期的な進歩を遂げていて、仮設建築物でも最新の機器で200万個の星が投影されて素晴らしいものでした。



 同じ年に湾岸の広いエリアではコンテナを積み上げて造られた巡回美術館というコンセプトのノマディック美術館が出現し、そこで開催されたグレゴリー・コルベールの『Ashes and Snow』(2007)は手漉きの大きな和紙にプリントされた巨大な写真、コルベール自身が水中を人魚のように泳いだりする映像やインスタレーションを楽しめるものでした。既存の建物ではないせいか、その空間に入ると何とも言えない不思議な空気に支配されているようで、流れる音楽も心地よかったです。設計を建築家の坂茂が手がけたそうで、遊牧を意味する名のとおり世界のどこかで設置され、ずっと続くということでしたが現在このプロジェクトは機能していないのは残念です。




 どこかに出現するかわからない、こういう〝見世物空間的展示〟にまたいつか遭遇できる日が来るといいなと思います。