「北陸の古都」金沢は北陸新幹線の開通でとても行きやすくなりました。ここは見所だらけで、とても一度では足りません。もし何度めかで余裕があればちょっと寄ってほしいのが、目立たないところにある〝泉鏡花記念館〟です。
金沢出身の作家・泉鏡花の名前は聞いていても、作品の内容を知ったきっかけは映像化された作品でした。初めて観たのは坂東玉三郎が二役を演じた『夜叉ヶ池』(1979)。映画作品では他に『陽炎座』(1981)『草迷宮』(1983)『外科室』(1992)などがあり、1990年代には『天守物語』『海神別荘』などが舞台化して話題になっていました。もっと前から言えば新派の演劇で『婦系図』『日本橋』も上演されてきましたが、残念ながら舞台は観ていないです。
原作は幻想的な話が多くて好みなのですが、文体が難しく気軽に読めないし、時代背景もよくわからないのを映画だと視覚的に情報が入ってくるのがありがたいです。
さらに私が作品により親しんだ媒体は波津彬子のマンガでした。鏡花作品のマンガ版や舞台のポスターだけでなく、オリジナルの『雨柳堂夢咄』は、おそらく鏡花の生きた時代が舞台なので、小説ではわからないその時代の風俗や小道具をずいぶんこのマンガで教わりました。
以前は日本美術鑑賞がちょっと不得手で、立派な茶道具を観て技巧がすばらしいと思っても、基本的な用具や使い方がよくわからないまま眺めていましたが、作法や決まり、茶室に飾られる花や掛け軸の意味、またその他にも書道家の四宝とは何か、古美術や古道具の蘊蓄、先人の残した逸話や格言などが散りばめられていたおかげで古美術の見方が少し広がりました。今や多少の鑑賞の手引きとして私にとって欠かせないもので、もちろんマンガとしても楽しんでいます。
主人公の骨董店の孫が狂言回しになっている基本一話読み切りの短編集で、どこから読んでも差し支えはないです。比較的スッキリした画風で誰でも読みやすく、電子コミックにもなっているのでスマホでもこっそり読めます。波津彬子は金沢在住のマンガ家で、今年金沢市文化活動賞を受賞し、金沢の美術館で作品展が開催されることもあります。
いつかまた鏡花の生きた時代を妄想しながら、ひがし茶屋街や石川近代文学館などの近代建築界隈を散策しに行ってみたいです。