「使用上の注意」という言葉は漫談とか漫画にまで出てくる日常用語となっている。しかし、薬の添付文書に記載されている使用上の注意は、日常使われている使用上の注意とはかなり趣を異にしている。このことは一般の人はほとんど分かっていないであろう。
すなわち、添付文書の「使用上の注意」は、薬事法52条に規定されており、局長・課長通知で、書くべき内容と記載方法や記載順序が細かく決められている。
薬の添付文書について〝見にくい、判りづらい、通じないなどの批判がある。添付文書の書き方に関連する検討会が何回も設置され、調査研究が行われ、改訂を重ねて、ようやく今日のような内容(薬発606号、平成9・4・25)になった経緯がある。添付文書のような小さいスペースに、必要情報を分かり易く表現するのは至難の業であり、現在も批判は消えていない。使用上の注意の書き方も同様(薬発607号)の改訂経緯である。使用上の注意の記載項目と記載順序は次のようになっている。
「警告」と「禁忌、慎重投与、重要な基本的注意、相互作用(併用禁忌・併用注意)、副作用(重大な副作用・その他の副作用)、高齢者への投与、妊婦・産婦・授乳婦等への投与、小児等への投与、臨床検査結果に及ぼす影響、過量投与、適用上の注意、その他の注意」の合計13項目に及んでいる。
これらの1項目ごとに、詳細な記載要領があり、独特の言い回しや記述のルールがある。このため使用上の注意は薬のことが良くわかる人でも、まず作れ(書け)ないと言えるほどの難物である。企業内の専門家が苦労して書き上げた傑作であることを認識し読んで頂きたいものだ。
使用上の注意がこんなに詳しく複雑な仕組みで成り立っている理由は2つある。1つは両刃の剣といわれる薬を正しく選び上手に使ってメリットを高める基本的な注意情報を伝達するためである。
適正使用の推進は添付文書の使用上の注意の熟読から始まる。処方医が処方医薬品について、使用上の注意を熟知していたとしたら、軽度の副作用はやむを得ないが、重篤な副作用のリスクは半減できると思う(抗がん剤のように承知の上で投薬する場合を除き)。
2つ目はあまり表には出ていないが、企業の製造物責任(PL)を回避するためである。薬害を含めた薬に関わる事故で訴訟が起った時は当然のこととして、その薬の使用上の注意の内容、即ち、いかなる注意が指摘されていたかが重要になる。このため使用上の注意の中身がより複雑・多量になってきていることは否定できない。
閑話休題。筆者は使用上の注意をより分かり易くするために「使用前の注意」、「使用中の注意」、使用後の注意」に3分割する案を提示した(日本医事新報3810号、平成9・5・3)。これは医師の処方行動とマッチし、処方前、投薬期間中、投薬後のそれぞれに注意すべきことを明示するものである。この方法で整理してみると使用前の注意が多くなる。安全な薬物療法には処方前の薬の選択が極めて重要であることを示唆している。(ちなみに投薬後の注意としてはホルモン剤をやめた時、造影剤の遅延性副作用などがある)。この案は採用されていないが、現在検討されている患者用の説明書に応用されると聞いている。
使用上の注意は余りに使い慣れた用語になったために、かえって軽視されやすい。
*薬の立場に立って一言。
「私(薬)が安全・有効に働くために、判りづらい〝使用上の注意ですが、熟読して処方ください」
神原秋男 著
『医薬経済』 2005年11月15日号