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セカンドオピニオン

2023/06/29 会員限定記事

言葉が動かす医薬の世界 11

 内輪の話だけでなく、もう少し第三者の意見を聞いてみてよとは、マネジャーからときどき指摘されることです。これは、当事者またはその周辺だけでなく、無関係な第三者から幅広く意見を集め、問題の本質を見究め、解決するための中正・最適な結論を得ようとするときに使われています。(実際には、マネジャーがディシジョンできないときの時間稼ぎや、自分の考えと同じ意見を探し求める場合に使われることも少なくないようですが…)。


 これと同じような意味で、医療の世界で使われているのが「セカンドオピニオン」という言葉です。


 セカンドオピニオンは「第二の意見」や「第二の診断」などと訳されていますが、通常はそのままセカンドオピニオンとして使われています。セカンドオピニオンとは「診断や治療の方針について主治医以外の医師の意見や見解」を指しています。すなわち、「別の人の意見あるいは評価」を意味し、「最初に相談する人以外の誰かから得る、医療などの専門的な性質の意見」を指すとMSNの大辞典は教えています。


 あまり難しく考えないで実際の例を考えてみましょう。主治医が診断して、「手術をします」と言われた時に、まったく別の医師に「この病態から、手術をすることが適切かどうかの意見を聞く」ことを、セカンドオピニオンを得ると言います。主治医も、すべての疾病治療に万能ではありませんし、診療には様々な方法があります。手術以外の、別の治療法が見つかるかもしれないというのがセカンドオピニオンのメリットです。さらに、自分が受けている診断・治療法が一般的な医療水準にあるかどうかのチェックにもセカンドオピニオンは使うことができます。


 セカンドオピニオンのシステムは70年代後半に米国で生まれ育ちました。患者の基本的人権の尊重を理念に、「医療には様々なアプローチがあり、患者は複数の選択肢のあることを知る必要がある」とするのが原点の思想です。この考え方の背景には「ニュールンベルグ裁判、ヘルシンキ宣言、バイオエシックス運動、患者の権利章典」など患者の人権保護に関する大きな流れがあります。また、患者の権利問題の他に、医療の方法が格段に進歩し、同じ病態に対して先端的治療を含めた各種の治療法が開発され、診断や治療法の選択肢が増えてきたことも、もうひとつの要因とされます。


 米国では診察の最後に「セカンドオピニオンをとりますか?」と主治医の方から聞かれるケースがあります。日本では、従来から医師・患者関係はパターナリズム(父権主義)が強く、いわゆる「お任せ医療」になっており、セカンドオピニオンを求めたいから診断資料を貸してくださいと卒直に主治医に言える患者はまだまだ少ない状態です。しかし、ここ5年の間にセカンドオピニオンに関わる日本の医療の状況も一変しています。大病院の多くには「セカンドオピニオン外来」が設置され、有料で専門医が相談してくれるようになってきました。また、主治医も、これに協力する姿勢に変わりつつあり、保険診療でも認める方向で検討されています。


 セカンドオピニオンという言葉は、この欄で取り上げてきた「患者中心の医療」や「インフォームド・コンセント」につながる用語であり、「EBM」とともに、21世紀の医療のあり方を根本的に変えてゆくキーワードだと思います。患者が自分の診療に戸惑う時、セカンドオピニオンをとることが常識化するのも、それほど遠い時期ではなかろうかと推察されます。


神原秋男 著

『医薬経済』 2005年12月1日号

2023.06.29更新