GCPとは、省令により「医薬品の臨床試験の実施の基準」と訳される。この略された英語を法的にこのように訳す術は素晴らしいと思う。
薬を創り(GLP・GCP)、製造し(GMP・GQP)、保管配送(JGSP)し、販売(GVP・GPSP)する各般のプロセスのなかで、このように多くの規制があり、作動している(下表参照)。
パズルではないが、よくぞここまで、GとPでまとめたものと感服する。GQP、GVP、GPSPは薬事法改正に伴い、05年4月に新設や改訂されたものであるが、次に、どんな単語を略したGXPが、どんな契機で、いつ作られるか楽しみ(?)である。
これらの基準のなかで、業界はもちろん、学会、医療機関や一般社会をも巻きこんで大騒動を引き起こし、現在もその延長線上の問題が議論されているのが「GCP」である。他の基準は、およそ自社内または関係業種内で対応が可能であるのに比べ、GCPの及ぼす範囲と影響が甚大なために新薬開発上の難関になっている。
89年に旧GCPが制定された(薬務局長通知)。製薬企業はそれ以前(84年)にGLPを経験していたために、安全性試験にルールができ、それを乗り越えてきたのだから臨床試験でも基準ができるのは当然であるし、わが社の実力ならば大丈夫だろうと、特別に重大視しなかったように思う。事実、旧GCPの時代は臨床開発部員の微増と努力により、ギリギリの低空飛行が可能であった。
ところが97年、ICHの国際基準に準拠した新GCPが施行(省令28号)され、これが新薬臨床開発面に強烈なインパクトを与えた。インフォームド・コンセントの文書化、施設IRBの新設、査察の実施、関係保存書類は約5倍に激増などの影響は、会社内はもちろん、病院・治験医・患者へと波及、治験の中止を含む混乱を起こした。93年に1200件あった治験届出数は新GCP公布3年目の99年には391件に、初回治験届出数は160件から52件に減少した。
これは「治験の空洞化現象」として識者の注目を集めると同時に、産官学が一体となって空洞化の解消に立ち上がった経緯がある。
新GCPが及ぼした影響ないしは変化を整理すると、①臨床試験の科学性・倫理性を遵守する姿勢の定着、②医療関係者・患者の治験知識の普及と理解の促進、③CRCなどの治験関連職種の新設、④CROやSMOなどの治験関連新業種の誕生と発展、⑤治験品目やテーマの精選、⑥病院の治験受け入れ体制の整備と事業的業務に変容、⑦治験期間の長期化、⑧製薬企業の臨床開発体制の強化、⑨研究開発費の激増、⑩臨床開発業務のルーチン化と薬効評価意識の希薄化——などが挙げられる。
わずか3文字の「GCP」という言葉は企業・病院・医師・患者に大影響を与え、新職業を創り、新規上場する企業まで作り上げた。GCPは日本の新薬開発史上に革命をもたらした用語であることは間違いない。
現在、「治験のあり方に関する検討会」が設置されGCPの改正問題を審議している。過剰防衛的規制を削除し、真に科学と倫理を厳守する方向への改正を期待する。
医薬品の各種基準
GLP Good Laboratory Practice
医薬品の安全性に関する非臨床試験の実施の基準
GCP Good Clinical Practice
医薬品の臨床試験の実施の基準
GMP Good Manufacturing Practice
医薬品の製造管理及び品質管理規則
JGSP Japanese Good Supplying Practice
医薬品の供給及び品質管理に関する実践規範
GQP Good Quality Practice
医薬品などの品質管理の基準
GVP Good Vigilance Practice
医薬品などの製造販売後の安全管理基準
GPSP Good Post Study Practice
医薬品の製造販売後の調査及び試験の実施の基準
神原秋男 著
『医薬経済』 2006年1月15日号