昔は医薬品の宣伝や営業を行う人をプロパーと呼んでいた。プロパーとはプロパガンディスト(Propagandist、宣伝者、伝道者)を略したものである。学術宣伝員とも言われていたが、プロパーという呼称は一般企業のセールスマンや営業マンとは明確に区分されているところに注目したい。薬という使い方の科学の重要な製品を扱う特性を配慮してつけられた名称であろう。大正時代にシルクハットに蝶ネクタイを締め、医師に洋薬の説明を行っていたのがプロパーの元祖であると聞いたことがあるが真偽はつまびらかでない。
製薬企業では医師・薬剤師への薬の宣伝を行う者をプロパー、卸の担当者はセールスと呼び、区分していた。プロパーは医師を中心とした医療関係者を訪問し、自社品の処方増加・販売促進活動を行うとともに、病医院への納入価格の決定や納入卸の選定なども行っていた。会社によりディテールマンと呼ぶところもあった。
70年代後半から、医薬品の販売競争が異常に激化したために、景品競争の制限、医薬品流通の適正化、公正競争を図って行くべきとの視点から医薬品営業のあり方が問われ、各種指針や規約が策定された。このような背景のなかで、プロパーのあり方も論議され、79年、製薬業界の総意のもとに自主規範として「企業内医薬情報担当者教育研修制度」が策定され、教育研修が始められた(現、MR教育センターの発祥母体)。
ここでは、従来から一般的に使われていたプロパーの用語は使わずに、「医薬情報担当者」という名称が用いられ、業務内容も納入ルートや価格決定などの権限は卸に移され、情報の収集・提供・管理を主業務とすることに変わった。
医薬情報担当者という用語はあまりに長く、日常の会話や文章には不向きな点や過去の悪いプロパーイメージを払拭する意味から、日本製薬工業協会は91年、医薬情報担当者を欧米先進国で使われているMR(Medical Representative)と呼称することを正式に決めた。
MRの定義は製薬協教育研修要綱によると「医薬品企業に属し、医薬品の適正な使用と普及を目的として、会社を代表し医療担当者に面接の上、医薬品の品質、有効性、安全性などに関する情報の提供・収集・伝達を日常業務として行うものをいう」とあり、GPSPによると「医薬品の適正な使用に資するために、医薬関係者を訪問すること等により適正使用情報を提供し、収集することを主な業務として行う者」とある。
MRの資格認定制度の由来は93年「21世紀医薬品のあり方に関する検討会」報告でMRの資格化が示唆され、次いで94年「医療におけるMRのあり方」検討会は「MRの資質の向上をはかるためにMRの資格化を導入すべき」と提言した。業界は「MR資格制度検討会」を設置しその建議により、「日本MR教育センター」を設立した(96年)。翌97年に厚生省の認可を得て、財団法人「医薬情報担当者教育センター」として発足した。第1回MR認定試験は97年12月に行われた。今日までに試験は12回行われ、合格者数は8万2041人に達している。
MR認定試験が始まった頃のMRへのインパクトは想像を絶するものがあり、大病院の近くの喫茶店はMRの研修所と化していた。
MRの本来の役割は医薬品情報活動を通して、薬の適正使用の普及、つまり正しい薬物療法の定着に努めることにある。最近、MRに関連する書籍は多いが、MRの基本である認定試験の内容を十分に踏まえて、あるべきMR論を展開してほしいと考えている。
神原秋男 著
『医薬経済』 2006年3月15日号