薬箱の中に入っている添付文書は最も基本的で正確な医薬品の情報源として機能している。
すなわち、医薬品の添付文書は薬事法で義務付けられており、医薬品の仕様に関する基本情報であり、適正使用に必要な最新情報が盛り込まれている。医薬品の承認時に添付文書(案)が審査の対象になっていることからも頷ける(薬事法には52条・記載事項、53条・記載上の留意事項、54条・記載禁止事項が規定されている)。
添付文書に書くべきこととして具体的に、作成または改定年月日、日本標準商品分類番号、薬効分類名、規制区分、名称、警告、禁忌、組成・性状、効能または効果、用法及び用量、使用上の注意、薬物動態、臨床成績、薬効薬理、有効成分に関する理化学的知見、取扱い上の注意、承認条件、包装、主要文献及び文献請求先、業者名、他の20項目の内容の情報が詰め込まれている。これら1項目ごとに記載内容、用語などの取り決めがされている。
大きいことは良いことではないが、命に関わる「薬」という製品の特性から、記載事項は多くなり記載方法も細かく取り決められている。その理由は、単に薬の使い方を説明するのみでなく、製品に関するすべての情報ニーズに、ミニマムではあるが答えようとするためである。
例えば、薬について訴訟が起こった場合、その製品の、その時点の添付文書の記載内容が重要な役割を果たすことは過去の多くの判例に示されている。また、製造物責任(PL)についても、添付文書に記載されている内容は重要な意味をもつ。このために、添付文書の内容が必要以上に複雑化している面がある。また逆に、警告、禁忌、使用上の注意などの内容と個々の患者に対する医師の裁量権との関係について疑義があり運用上の論点になっていることもある。
一方、添付文書の内容が判りづらいとする医療関係者からの意見も少なくない。知らせたい、あるいは知らせねばならない内容が多種・多様であることや表現上の独得のルールがあることによる他に、薬の箱の中に入れる書類であるため大きさ(文章の量)の制限があり難しい問題である。
実際にはいろいろな研究調査が行われ、添付文書の内容、書き方などについて検討会や調査会が設けられ、何回も議論されてきた結果である。今日までに何回の改正が行われたかを調べようとしたが、途中で諦めた。それほど改正が繰り返されてきているもので、医療関係者が、もう少し添付文書を読む習慣をつけること、馴染むことも大事な一面であろう。
ところで、この添付文書は73年頃までは一般に「能書」(効能書の略)と呼ばれていた。すなわち、薬の使用者に、薬の効能や使い方を知らせる説明書であった。能書を作るには薬をいかにうまくまとめるか、宣伝するかがポイントとなり、名宣伝文句や形容詞・副詞の使い方が、各社で競い合われた時代があった。その後、「能書」という名称では本来の正しい情報を伝えるという機能が果たせないという考え方から、「添付文書」に改名されると同時に、添付文書の役割と重要性が認識され、次々と書くべき項目が増え書き方に規制(統一化)が入り今日に至っている。
薬を調べる上で、添付文書以外の補完情報としては「医薬品インタービュー情報」や「医療用医薬品製品情報概要」がある。これらは全て医療関係者向けの情報である。患者さんのための情報として「薬のしおり」(日本RAD‐AR協議会)があり、新しい患者用説明書の検討も行われている。
神原秋男 著
『医薬経済』 2006年4月1日号