「再評価」という言葉は評価を新しい視点から行うという意味で、幅広い局面に使うことができる非常に便利な用語である。
資産再評価法、土地の再評価、公共事業再評価、事業再評価システム、大規模林道再評価、聖嶽(ひじりだき)再評価、再評価カウンセリング、ザ・ウルトラマン再評価、販売方法の再評価、品質再評価、定期的再評価……など多彩な場面で一般的に使われている。
医薬品の再評価とは「すでに承認されている医薬品について、現時点の医学・薬学の学問的水準から品質・有効性・安全性について見直す」制度を指す。
60年代はサリドマイド事件(61年)やアンプルかぜ薬事件(65年)、クロロキンの視力障害、クロラムフェニコールの血液障害、スモン事件(70年)など安全性に関わる問題が多発すると同時に、ビタミン剤や肝臓用薬などの有効性についての疑念が指摘され、医薬品のあり方について、基本的な問題点がクローズアップされた。
これを受けて70年に「薬効問題検討会」が設けられ、その答申に基づき、医薬品の再評価制度がスタートした。再評価制度は法的に承認された医薬品について、現時点の学問的水準で再審査を行うという、薬制史上まれに見る新施策であった。
また、医薬品再評価は「再評価」という言葉が、前述のような一般的事象にも使われるようになった元祖と言えるであろう。
実は、新薬の承認審査について67年に、科学的評価方法をベースにした「医薬品の製造承認に関する基本方針」が明示され、承認審査方法が全面的に改訂されていた。
72年度から始められた第一次医薬品再評価は承認審査基本方針が出る前の、67年10月以前に承認された全医療用医薬品(約2万品目)について、95年まで23年間にわたり続けられた大事業であった。
製薬企業にとっては、主力品を含めたほとんど全製品を、最新の医薬学的水準に照らして再審査するということで、大恐慌をきたした。そこで、各企業は専門組織や新チームを編成し、緊急対応を図った。全製品のデータの調査・整備を行うと同時に、それらのデータがその時点の水準に耐え得るものかどうかの評価を行った。具体的には製品データの整備のほかに、基礎・臨床にわたるデータ補充実験や新治験の実施、科学水準に合ったデータ武装のできない製品については、販売中止に至る対策が講じられたのである。
また、当時、大きな市場を占めていた脳循環代謝改善剤がプラセボとの比較試験の結果の再評価により承認取り消しになる(98年)という大ハプニングがあった。
医薬品再評価は製薬企業に膨大な投資を強いるとともに、医薬品の情報に対する基本的認識の革新を図り、アップ・ツー・デイトな製品評価と製品情報拡充の重要性を再認識させた。
再評価制度は79年の薬事法一部改正により再審査制度、安全性定期報告などと同時に法制化された。その後第2次再評価を経て、88年から、5年ごとの文献スクリーニングの結果に基づき行う「定期的再評価」と「臨時再評価」からなる「新再評価制度」に改訂されている。
医薬品再評価の基本的理念は、新医薬品の再審査制度や安全性定期報告、副作用・感染症報告制度、市販後調査制度へと発展し、新医薬品管理の根幹を成すPMSを作り上げた。
薬業界では使い慣れた再評価という3文字であるが、まさに「人を動かし、組織を走らせ、薬業界を制した」言葉である。
神原秋男 著
『医薬経済』 2006年4月15日号