「薬価改定頻度の引上げは薬価改定にかかわる構造的問題点を深刻化させるものであり、長期収載品の特例改定の深堀りなど市場価格に基づかない引下げが存在していることと併せて、製薬企業に深刻な打撃を与えることは明白であり、反対します」「長期収載品の成分加重平均値改定方式は先発品の市場実勢価格を下回る予測不能な価格への引下げを余儀なくさせられます。(略)先発品の薬価下落が加速するこの方式は理不尽であり、銘柄別市場価格主義を否定するものであるので反対します」。この2項は日薬連が厚生労働相に提出した要望書の要点である。
欧州製薬団体連合会は「新薬のイノベーションを促進する薬価制度構築の必要性と市場拡大再算定や長期収載品の特例引下げの廃止、薬価の頻回改定と成分加重平均による改定に反対する」と厚労省の「医薬品産業政策の推進に係わる懇談会」で主張している。同じ会で卸連は「総価取引は現行の薬価制度を蝕むものである。調整幅2%は薬剤流通安定のための必要最低限の水準である、薬価調査に基づかない強制引下げは恣意的なルール変更で、フェアではない」などと指摘している。
昨年の中医協の積み残し事項もあり、今年は早々と薬価基準の改定をめぐる発言が喧しくなっている。例年のように、年末の時間切れで予測外の結論が出されるよりも、じっくり時間をかけて本質的な論議を行うのは意味のあることであろう。ただし、薬価改定を毎年実施するという課題は、これを実際に行うには薬価調査も必要であり、切迫したテーマになる。
ところで、「薬価基準」なる言葉は、日本の薬業界と薬物療法そのものに多大なインパクト与えてきた代表的な用語である。これからも新薬開発から日常診療までを動かしていく底力を持つ用語である。
「薬価基準が製薬企業に与えた影響に関する動的・史的考察」や「日本の薬物療法の進歩と変遷に及ぼす薬価基準の影響」は学位論文に匹敵する研究テーマであろう。
薬価基準はこれだけの影響力を持つ言葉であるがゆえに、それに係わる用語も幅広く、独特のものがあり、門外漢にとっては難しい。そのいくつかを挙げてみよう。
統一限定列記方式、銘柄別薬価、薬価差益、バルクライン方式、リーズナブルゾーン、調整幅、再算定、類似薬効比較方式、原価計算方式、外国平均価格調整、規格間調整、画期性加算、有用性加算、成分加重平均改定、特例引下げ、一律引下げ、経過措置品目、参照価格制などと挙げていくとキリがない。これをみて概念的には理解できても、その中味や細かい取り決めを詳述できる人は少ないであろう。
閑話休題、厚生労働相が告示する「薬価基準」は2つの性格を有する。ひとつは保険医療で使用できる医薬品の範囲を決めたもの、すなわち保険医療で使える品目表である。他は保険医療で使用した医薬品の請求価格(基準)を定めた価格表である。価格表の性格が医薬品流通と絡んで様々な問題を惹起してきている。
今日の薬価基準に至る歴史は複雑である。わが国に健康保険制度が発足した1927年当時は内服薬について1剤1日1点という規定があるのみで、医師の購入薬価とは無関係に薬剤料が請求されていたという。当時の物価庁による第1回薬価大調査が行われたのは1950年で、2267品目が収載された。全国統一の薬価基準になったのは1955年で、品目表と価格表という2つの性格が付けられたのは1957年4月の厚生省令による。
神原秋男 著
『医薬経済』 2006年7月15日号