昨年の中央社会保険医療協議会の継続審議事項である「薬価改定の頻度見直し」(年1回改定)については薬価専門部会の審議が行われている。多くの委員から時期尚早の意見が出された。業界からの意見聴取でも、こぞって頻回改定の不合理性や反対の立場が陳述された。反対論の多いなかでの薬価専門部会の今後の審議と導かれる結論は非常に注目される。
薬価専門部会では続いてもうひとつの継続審議事項である「同一成分加重平均値方式」のテーマが取り上げられようが、これには賛否両論があるうえに、新薬企業への直接的影響が大きく、製薬協にとっては天王山である。
薬価基準の改定のみでなく、少子高齢化社会の到来に伴う社会保障費の削減をめぐる論議が分野を問わず切迫感を増している。
なかでも、医療費抑制策の要である診療報酬や薬価基準のあり方や改定方策は環視の的である。経済財政諮問会議や社会保障のあり方懇談会での議論や提案事項から関連する内容を抽出すると
・医療費の伸び率をGDP(国内総生産)などのマクロ経済指標で管理する方式の採用
・「医療保険免責制度」の新設
・いわゆる「非処方せん薬」を保険診療から削除する(市販薬との負担の均衡)
・成分加重平均値方式から発展して「参照価格制」を導入
など、いずれも古くから提起されている新しい課題である。これらは医療費抑制策とは言え、定着している国民皆保険制度の中身を根本的に変革する抜本的な施策であるため、同じ与党内でも意見集約ができず、賛否両論の考え方が入り乱れている。さらに、これらの施策のうち、02年に改正された健康保険法附則に明記されている「将来にわたって患者負担は3割を限度とする」という縛りに触れる案もあり、議論は錯綜する。
ここで取り上げた「保険免責制」とは「健康保険から給付される医療費のうち、一定の金額までは医療保険の適用を免除し、患者の自己負担にする制度」である。
厚生労働省の「医療制度構造改革試案」の参考ページには「外来診療について、低所得者を除き、かかった医療費のうち、受診1回ごとに一定額(1000円または500円)まで自己負担する」とある。
仮に、免責額(自己負担額)を1000円とすると、医療費が1000円までは保険が効かず全額自己負担になり、1000円を超えている部分は超過額の3割が自己負担となる(表は仮に免責額が1000円の場合の計算例)。風邪・2日通院で自己負担1700円→3100円、下痢・2日通院で1600円→3000円になる試算がされている。
厚労省は保険免責制について「自己負担増から過度の受診抑制が起こり、その結果、患者の重症化を招く。3割負担の限度規定に添わず、受診機会の少ない若年世代の支持が得られない」と反発している。公明党も「国民皆保険の理念に反し医療保険に対する不信感を増大する」と反対している。
今後、現行規定との折衷案の可能性もあり、動向を注目したい。
今までこの欄で取り上げてきた言葉は、医薬の世界にインパクトを与えてきた言葉を中心に選択してきた。今回の「保険免責制」という言葉はこれから政界、医療界やメディアで話題を呼ぶ用語としてとりあげた。
神原秋男 著
『医薬経済』 2006年8月15日号