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製薬会社

2023/06/27 会員限定記事

言葉が動かす医薬の世界 3

 02年7月に公布された薬事法改正のポイントは、①医療機器安全対策の拡充②ゲノム・バイオ時代の安全確保対策③市販後安全対策の充実と承認・許可制度の見直し――の3点に集約されている。


 なかでも、今年4月から施行された承認・許可制度の改正は後世に残る大改革に値するだろう。輸入販売業への規制がなくなり、新しく「製造販売業」と「製造業」が規制対象となった。製造販売業は品質保証・市販後安全対策が許可要件となり、製造業は構造設備基準が許可要件となる。


 結果として、製造の委受託や分社化が可能となり、市販後安全対策の委受託が認められ、医薬品業界にも本格的なアウトソーシング時代がやってきた。


 これを受けて製薬企業は製造部門の分社化や製造委託の方式を検討し、その動きが活発化した。分社化方式をとる企業に、三共、第一、山之内、田辺などがあり、武田は製造委託方式をとるという。


 製造委託と言っても、1品目の製造委託から製造類似性の高い品目群すべての委託、一定の製造プロセスを委託する方法など多彩である。また、受託企業側も製造受託戦略を立て、設備投資や受託体制の整備を行い、受託生産業務の受注と拡大に注力している。新設備と生産能力特性を謳う受託競争が展開されている。一方では、医薬品の製造技術研究や製造ノウハウ保全が製薬企業の本命業務として、分社化や安易な委託に疑義を唱える業界人も見られる。


 いずれにしても、日本の医薬品の製造原価率は欧米に比較してきわめて高いとされる。製造委託による原価率低減への期待は大きい。自家生産の方策をとる製薬企業においても製造直接部門の給与体系の改訂は避けられないのではなかろうか。製薬企業がとる今後の製造戦略は、グローバル化と経営指標の改善に大きな影響を与えるであろう。


 閑話休題。○○製薬、製薬企業、製薬業界などと何気なく「製薬」という言葉を使い、スムーズに意思交換ができている。今回の薬事法改正により、医薬品製造の全面的な委託が可能になった今日、製薬会社とか製薬企業という言葉が旧来通りに使われて、果たして正しいと言えるのだろうか、とへそ曲がりは考えてしまう。


 「製」とは「つくる」ことを意味し、「製薬」とは「薬をつくる」ことを指す。大日本製薬や第一製薬などの会社の製薬とは洋薬(化学構造式の薬)を、日本人の技術で製造するという意味から付けられたと40年前の薬学史の時間に教えられた。そして製薬会社は営々とその企図を忠実に果たしてきた。戦時・戦後の混乱期はまさに製薬競争の時代で、製造すること、製造できることが製薬企業の本命業務で、作れば売れる時代であった。


 そして、製造技術の進歩と普及につれて「販売力」が問われる時代になった。生産者の時代から消費者の時代になった。ついで「創薬力」(新薬パイプライン)こそ、製薬企業サバイバルの必須条件に変わってきた。一方、たくましくエンドレスな創薬力により生み出された強力な新薬の出現は創薬に対して育薬(別稿に取り上げる)の重要性を提起した。21世紀の医薬品産業はグローバルな「創薬と育薬の時代」へ変質している。


 製造の委受託を認め、安全対策の強化を、企業に課した薬事法の改正は「医薬品産業の本質は製造・製薬ではなく、創薬と育薬である」ことを、法的に明確化したものと解釈することができる。

「製薬」→「販売」→「創薬・育薬」という言葉の流れの歴史を大事にし、製薬の未来展望を拓きたい。


神原秋男 著

『医薬経済』 2005年8月1日号

2023.06.27更新