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未承認薬

2023/07/20 会員限定記事

言葉が動かす医薬の世界 30

 生体に作用する物質が厚生労働大臣により承認されて、はじめて「薬」になる。この定義から考えると、未承認の薬というのは厳密に言うと存在しないことになる。恒例的に使われている治験薬も同じ範疇に入る矛盾を持っている。


 とかくこの世の「言葉使い」は難しいものである。ところが近頃、「未承認薬」という言葉がメディアに頻繁に使われるようになってきた。この言葉は厳密に言えば、「日本では」未承認の薬、ないしはある適応が取れていない薬ということを意味し、「日本では」を省略して使っているわけである。正確を期す意味で「国内未承認薬」と表示しているメディアもある。


 未承認薬という言葉が繁用されるようになった背景には、情報化社会の進展とグローバル化、ボーダーレス化の影響がある。インターネットを通して、医療の専門情報や最先端の医薬品情報を誰でもキャッチできるようになった。


 日本には適切な治療薬がなく代替療法もないけれども、海外では同じ病態の患者さんが薬物療法により恩恵を受けている。それが生命につながる病気だとしたら、患者さんにとっては耐えられない、許されない事態であろう。


 必要な薬があれば、手続きは面倒であるが、個人輸入で入手し条件付きで使用できる。ただし、これはあくまでも特例措置であり、一般に推奨できる方法でも、一般に容易にできる方法でもない。


 このような背景から、日本で使えない未承認薬の問題がクローズアップされ、行政や業界の課題になってきた。その代表例が「ドラッグ・ラグ現象」と呼ばれるものである(本誌06年9月1日号の本欄参照)。


 日本は欧米先進国と比較して有用な新薬が未承認の状態にあり、アジア諸国と比べても同じ傾向が見られる。つまり、日本の医薬品市場のスケールは世界2位である一方、新薬に関しては後進国のレッテルが貼られる状況にある。


 世界で汎用されている医薬品にドラッグ・ラグが起きている主要な要因には次の2つがあろう。


 ①日本の治験がスムーズに着手・進行せず長期間を要する。さらに「治験経費が高い、質が悪い」点から、いわゆる「治験の空洞化」現象を起している。②輸入新薬に関わる承認審査制度の厳格さと審査期間が長期化傾向にあること。


 治験空洞化の解消については医薬品産業ビジョンの「治験活性化3ヵ年計画」をはじめ、「治験のあり方に関する検討会」の中間答申の効果や今後の抜本的改善策の提案が期待される。さらに「次期治験活性化策定に係わる検討会」が今年6月に発足、新規の活性化対策が練られる。しかし笛吹けど踊らずは言い過ぎとしても顕著な改善は見られていない。治験門題の解消には全般的・底上げ的な改善策もあるが、重点化・集中化した拠点対策が必要と考える。


 一方、旧来からの未承認薬問題は混合診療とも密接に関連し早期打開が求められた。これらを迅速・的確に解決するため、「未承認薬使用問題検討会議」が「欧米諸国での承認状況、学会・患者要望を定期的に把握し、臨床上の必要性と妥当性を科学的に検証し、確実な治験実施につなげることにより、使用機会の提供と安全確保を図る」目的で、積極的な対策を講じてきた。すでに、抗がん剤の併用療法を含めた多くの未承認薬について実用化(承認)されるとともに、未承認薬23品目の治験状況を厚労省のホームページに公開し、患者の便宜を図っている。


 「未承認薬」との言葉が〝使われない〟あるいは、〝使う必要のない〟状況こそ、望むところである。


神原秋男 著
『医薬経済』 2006年10月1日号

2023.07.06更新