医薬品には「医療用医薬品」と「一般用医薬品」の2種類がある。両者は申請・承認時に明確に分かれており、薬価基準に収載されている医薬品は医療用医薬品である。
「一般用医薬品類似医薬品」という用語があるが、これは保険給付のあり方を論じる場合、一般用医薬品と同一の有効成分を含有する医療用医薬品を総称する俗称として使われた。漢方製剤、パップ剤、ビタミン剤などが該当し、医薬品の保険給付範囲が論じられるたびに出没する用語である。
薬事法で定められた一般用医薬品は通称、一般用薬、大衆薬、市販薬、またはOTC薬などと言われているが、個々の厳密な定義とその違いは定かではない。
OTC薬はover-the-counter drug の略で、米国で処方せんなしに店頭で一般に売ることができる点から、この名称がついた。スイッチOTC薬とは医療用医薬品として使用されている有効成分を、OTC薬に転用(スイッチ)した医薬品を指す。医師の処方せん・指示により使われていた医薬品が、薬剤師の指導の下に(over-the-counter)販売できることを意味する。
医療用から一般用への転換であるから、承認時に「情報提供の方法、広告宣伝方法、販売方法」について一般用薬よりも厳しい条件が付され、通常3年間の市販後調査が課せられている。スイッチOTC薬は最初から一般用薬として商品化された医薬品よりも、効き目が強いと考えられている。
最近、スイッチOTC薬の問題がクローズアップされてきているのは、一般用薬の販売管理制度を刷新した薬事法の改正が行われたことと関連している。
新薬事法では、一般用薬を第Ⅰ類、第Ⅱ類、第Ⅲ類医薬品の3群に分類し、Ⅰ類は薬剤師のみが販売できる医薬品、Ⅱ、Ⅲ類は薬剤師と新設される「登録販売者」(新たな資質認定者)がともに販売できる医薬品に分類された。ところが、全体の一般用薬、約490成分中、Ⅰ類はわずか11成分である。一般用薬の95%以上を新規の登録販売者が扱えることになる。薬の専門家を自負する日本薬剤師会は、薬剤師のみが扱える一般用薬が極めて少ない事態を重く受け止め、「今後、スイッチOTC薬の拡充を図る措置」を強く要望している(スイッチOTC新薬は市販経験が少ないから、自動的に薬剤師のみが扱うⅠ類薬になる)。
一方、厚生労働省医薬食品局は07年度の新規事業として「一般用医薬品リスク評価対策費」1500万円を概算要求し、専門委員会を新設する計画である。専門委員会では3分類の見直しを恒常的に行うほか、OTC薬へのスイッチが可能な医療用医薬品成分について検討を行い、スイッチ化を促進したいとしている(RISFAX9月4日号)。
また、大衆薬協は日本薬学会に「スイッチ候補成分リスト」の作成を依頼している。欧米に比べ日本のスイッチOTC薬化は遅れており、新しい視点から再検討し、生活習慣病などを含めた対策と連動させる時代といえよう。
なお、販売制度改正検討部会の提案はⅠ類及びⅡ類の*印品(25成分)を、本来の「OTC薬」とし、それ以外を仮称「一般用薬」に新分類することが適切であると指摘しているように読み取れる。
一般用薬は医療用医薬品として一定期間以上の使用実績があり、有効性・安全性が確認されたものに限られている。しかし、外国での使用経験や特別のデータがある場合、直接OTC薬として承認されるものがあり、これを「ダイレクトOTC薬」という。代表例として育毛剤のリアップがある。
神原秋男 著
『医薬経済』 2006年10月15日号