「代替調剤」(drug substitution)とは「医師が患者に対して銘柄により医薬品の処方せんを出した際に、処方せんを受けた薬剤師が同一有効成分、同一規格の別銘柄品に変えて調剤すること」をいう。
すなわち、医師が処方した医薬品を、薬剤師が患者の了解を得て、品質、コストなどを考慮して同一成分の他のブランド名の医薬品に変えて調剤することである。
日本では「代替調剤は医師の処方権の侵害である」とする考え方が強い。薬剤師法23条には「薬剤師は処方せんに記載された医薬品につき、その処方せんを交付した医師、歯科医師又は獣医師の同意を得た場合を除くほか、これを変更して、調剤してはならない」すなわち、「医師の指示した以外の薬を出してはいけない」と明瞭に代替調剤を否定しており、現在もそれは生きている。ただし、医師が一般名で処方せんを発行した場合は、薬剤師に銘柄の選定を一任したことになるから、これは代替調剤とは言わない。
「代替調剤」という言葉が喧しく論じられるようになったのは、後発品の使用促進策として、実質的に代替調剤を認める方策が、今年4月の診療報酬改定に採用されたためである。
今回の改定で新しい処方せん様式が作成され、備考欄に医師が「後発医薬品への変更可」に同意すれば、記名押印する形式で代替調剤ができ、保険点数も2点加算されるようになった。正式な代替調剤ではなく「医師承認型の代替調剤方式」と呼ぶべきものである。
実は、この方式は、昨年4月にオープンした横浜市立みなと赤十字病院で「銘柄指定の指示がない限り薬効別薬価基準の同一薬品の範囲内で代替調剤を認めます」という処方せんが発行され、先行実施されていた。これは病院として「患者がスムーズに処方薬をもらえるよう、薬局の備蓄を配慮してのことであった」。先発品の中にも2銘柄品もあり配慮したもので、特別に後発品推奨の意図はなかったという。
昨年6月、参議院議員広中和歌子氏が、このような方式は法的に問題がないかと質問し「現行法上、問題はない」との回答があり、医師承認型の代替調剤は日の目を見たという経緯がる。これを受けて「医療費削減↓後発品使用促進↓新処方せん様式」へ発展し、4月の診療報酬改定事項の一つになった。新処方せん様式の実施は初めての経験のため、薬剤師から医師への後発品変更銘柄名の連絡方法や医師が後発医薬品のない新薬に「代替調剤可」として加算分を請求したり、適応の違いがある後発品への代替、薬剤師の情報提供不足などの問題が発生した。
代替処方の現時点の普及状況は日本調剤の6月までの実績で「月間処方せん枚数は約50万枚、後発品変更可の処方せん約8万枚、うち後発品の調剤は約2万枚」(RISFAX06年8月1日)である。これを進展していると見るか、遅々としていると考えるか……。10月9日の日本薬剤師会学術大会で厚労省保険局の磯部薬剤管理官は「後発品使用促進に薬剤師の責任を果たせ」と発破をかけた。
代替調剤は米国、仏、独、和蘭などでは薬剤師の一般的な権利として認められている。日本の薬剤師にとって、代替調剤はかねてからの念願であった。今回、後発品使用促進の余波を受け、「医師承認型の代替調剤」としてはじめて実現した。この薬剤師の権利=銘柄選択権を患者の適切な薬物療法(後発品切替のみを意味しない)のために生かしたいものである。その成果により「完全代替調剤」への道が拓けてくるであろう。
神原秋男 著
『医薬経済』 2006年11月1日号