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適応外使用

2023/07/25 会員限定記事

言葉が動かす医薬の世界 33

 医薬品の適応外使用(off-label use)とは、承認されている以外の効能・効果を目的とした、または承認されている以外の用法・用量を使用する医療行為をさす。つまり、医薬品の適応と用法・用量について、承認外の使い方をした場合を「適応外使用」という。


 少し古い実態調査であるが、約5割の医師は適応外使用の経験があり、「文献などの根拠があれば医師の裁量で行うべき」と考える医師は43%、「保険上のルール違反なので行うべきではない」が13%との報告がある。


 適応外使用が問題になる理由のひとつは、医療保険が認められない点である。医薬品の適応外使用の医療は全額自己負担になるか、減額処置(特定療養費制度)がとられる。これはわが国の保険診療は、薬事法で承認された適応の範囲内をカバーする仕組みになっているからである。これを逃れるために、いわゆるレセプト病名(保険審査の査定を受けないような病名をレセプトに記す)を使う不正が一部にあるという。


 適応外使用のもうひとつの問題点は、適応外使用により障害が残る副作用が発生した場合でも、「医薬品被害救済制度」による救済給付を受けられないことである。


 適応外使用が問題になる医薬品は非常に多い。過去に開発された医薬品で、薬物療法の進歩で新効能に有用な成績があるにもかかわらず、追加効能の承認が得られていない医薬品、抗がん剤に見られる併用療法による効果が検証されながら一方の抗がん剤に適応がない例、理論的・薬理的に効能があるものの患者数が少なく使用症例が少ない例、小児の使用データがまとめられない例、海外のデータは豊富だが国内の成績がない例など、適応外使用が起こる要因は多種多様である。このうち、適応外使用のニーズが高く、とくに問題になるのは、抗がん剤の併用療法と小児科領域の薬物療法である。


 適応外使用をなくすため、追加効能の承認をとるには治験データなどの申請資料の作成を要する。企業は患者数の少ない疾患や小児に治験を行うこと自体が大変な投資であり、仮に適応がとれたとしても、使用量は少なく経営的メリットは少ない。この種の適応拡大申請は、企業の投資テーマになり難いのが実状である。


 一方、製薬企業の主力品では適応外使用の問題は起こっていない。これは適応拡大のための情報収集が強力に進められ、必要な対策がとられているからだ。個々の採算は無視してもブランドイメージの高揚と知的財産権に絡まるメリットがあるのだろう。


 適応外使用を解消するため行政は広範な努力を続けている。99年に「適応外使用に係わる医療用医薬品の取扱いについて」という、いわゆる「二課長通知」で適応拡大申請の簡易化策を打ち出した。


 これにより99年から今年6月までに61の有効成分の新適応が承認された。さらに「抗がん剤併用療法に関する検討会」、「小児薬物療法検討会」を設置し、二課長通知の具現化に努めている。また、新しい治験の必要な効能については「医師主導治験」による対応を国が支援し、成果が出つつある。


 申請・承認主義をとり、薬事法承認内容がイコール保険適応になるという日本独特のシステムにおいては、適応外使用の問題は常に発生し、解消することはない。


 すでに、診療の場で使われ、安全性や有効性が検証されている医薬品の保険診療は、薬理学的に妥当であり、海外を含めて一定のエビデンスがあれば、専門学会の要望を入れ、特別に認定するような新システムの検討が必要だろう。


神原秋男 著
『医薬経済』 2006年11月15日号

2023.07.12更新