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先進医療

2023/07/31 会員限定記事

言葉が動かす医薬の世界 37

 医学部の学生から「最近は先進医療の勉強をしています」という手紙をもらったとする。「先進医療」という言葉には2つの意味がある。それにより学生の勉強の中身は大きく異なってくる。


 先進医療とは一般的に解釈すれば、「先端的医療、最前線の医療」を意味し、進歩している医療、より進んでいる医療を勉強していることとなる。もうひとつの意味は、本稿で説明する先進医療で、「保険診療上に位置付けられた医療」を指している。多分、手紙をもらった親父が、医療関係者ならば後者の見方をし、医療に無関係な人なら、前者の見方をするのが一般的であろうか。言葉とは実にかくも厄介なものである。


 保険診療でいう先進医療とは、厚生労働省の説明によると「国民の安全性を確保し、患者負担の増大といった観点も踏まえつつ、国民の選択肢を拡げ、利便性を向上させるという観点から、保険診療との併用を認める」こととしたものである。先進医療は、健康保険法等の一部を改正する法律(平成18年法律第83号)において、厚労大臣が「高度な医療技術を用いた療養で、保険給付の対象とするものであるか否かについて、適正な医療の効率的な提供を図る観点から、評価を行うことが必要な療養」となる。このように先進医療は規制改革の一環として新しく決められたもので、従来の「高度先進医療」と「先進医療」が、昨年の10月から統合されたものである。すなわち、健康保険法の一部改正により「評価療養」制度(保険導入を前提とした医療、保険給付の対象とすべきか否かを評価する医療)が設けられ、先進医療はそのひとつに位置付けられた。


 この説明のように、法的な意味は実に大儀なものでわかりにくいが、端的に言えば「最新の診療技術について有効性・安全性を確保するため、医療技術ごとに実施できる施設基準を決め、保険診療との併用を認め、将来的な保険導入の可否を評価する」ものである。保険診療との併用を認めている点から実質的に「混合診療」であるが、そうは書かれていない。


 06年11月時点で、112種類の先進医療と、実施できる「医療機関」が厚労大臣から認定・開示されている。先進医療の具体例を挙げると、「限局性の固形悪性腫瘍に係わる強度放射線療法(北大病院他)」、「培養細胞による先天性代謝異常診断(岐阜大学病院他)」など、素人にはほとんど理解できない治療法や診断法の先進医療技術112種類が挙げられている。さすがにDNA診断(神経変性疾患、家族性アミロイドーシス、筋緊張性ジストロフィーなど)や遺伝子診断に係わる診断技術が多い。


 指定施設で先進医療を受けた場合の費用は、「先進医療に係わる費用」は患者が全額自己負担するが、一般保険診療と共通する部分は保険給付されるから、一部自己負担分を負担すれば良い。


 先進医療(新規医療技術)に認定されるには「届出様式」で申請。保険局医療課で申請書類の基本項目を精査後、専門診療科委員による審査意見を参考に「先進医療専門家会議」(座長・猿田享男)で、有効性や安全性の確認、医療技術ごとの要件を設定し、審議結果を答申する。その答申をもとに厚労大臣が決定する仕組みである。


 なお、評価療養にはここに記した先進医療のほかに、「医薬品・医療機器の治験に係わる診療」「薬価収載前の承認医薬品の投与」「保険適応前の承認医療機器の使用」「薬価収載医薬品の適応外使用」が認められ、非常にわかりやすい仕組みになった。


神原秋男 著
『医薬経済』 2007年1月15日号

2023.07.12更新