レディメイドの洋服は人によりダブダブであったり、窮屈であったりと、なかなかピッタリしないものだが、オーダーメイドの服なら誰にでもフイットする。こうした既製服と注文服の違いを比喩的に医療(薬物療法)に当てはめたのが「レディメイド医療」であり、「オーダーメイド医療」である。
オーダーメイド医療とは、ヒトゲノム解析研究の成果をもとに、個々人の薬物反応性や疾患感受性などの体質や病気の質の違いを把握して、個々人に最も適した医療を行おうとするものである。
現在の医療(レディメイド医療)は多数の一定の病気の患者さんに対する臨床研究結果(治療成績)から、効果が高く副作用が少ないことを検証して、治療法が組み立てられている。薬の適応症や用法・用量は多数例の反応結果から決められている。そこには個人差という問題は、ほとんど考慮されていない。むしろ、個人差が医科学的に解明されていないために、やむを得ず平均的データを全員のデータであるかのように扱わざるを得ないのが実情だ。
個人差を配慮した薬物療法上の慣わしとして、日本では古くからさじ加減という言葉がある。とはいえ、さじ加減は処方医の経験と勘から生まれてきた知恵であり、科学的な方法ではない。前回紹介したTDM(薬物治療モニタリング)は薬物体内動態から、個人の用法・用量を決めようとする非常に科学的な個別化医療の典型である。これらはPersonalized Medicine(個別化医療・個人別医療)として発展してきたものである。オーダーメイド医療はゲノム解析研究の成果により、個々人に最適な予防法や治療法を可能とする医療である。薬物療法でいえば個々人の病気に応じて、薬の選択と用法・用量を最も適切に行うもので、究極の典型的な個別化医療を指している。
オーダーメイド医療確立への研究は着実に進展している。ヒトゲノム配列は99.7〜99.9%は同一であり、0.1〜0.3%の違いによって、薬物反応性や疾患感受性などの体質・個性の違いが生じている。その解明がオーダーメイド医療確立の第一歩である。オーダーメイド医療実現化の国家プロジェクトへの期待が高まる。
ところで、オーダーメイド医療と同じような内容で「テーラーメイド医療」という言葉が頻繁に使われている。2つの用語の意味の違いについて、いろいろ調べてみたが、両者は同じ意味の言葉と理解していいようだ。
テーラーメイドを使う人はTaylor-Made Medicineという英語があり、オーダーメイド医療は和製英語であるという。また、オーダーメイドを使う人はテーラーメイドという日本語は、一部の金持ちにしか手が届かない高級な感じがありすぎる点とテーラー(仕立屋)がメイドするのではなく、主体である患者さんのオーダーに合わせた医療を確立するという意味で、オーダーメイド医療という表現が適切であるという。いつものように「言葉」は厄介な代物だが、我われはあまり気にすることなく、同意語と覚えてよさそうだ。
神原秋男 著
『医薬経済』 2007年2月15日号