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優先審査

2023/08/04 会員限定記事

言葉が動かす医薬の世界 41

 一般的には、「優先審査」という言葉から、特許の審査を頭に描く人と新医薬品の審査を考える人との2つのパターンがあろう。特許と医薬品審査の両方の意味が浮かび、咄嗟にどちらだ、と思う人がいたら、マルチ人間か、あるいは製薬企業の知的財産関係の仕事をしている人だと思う。


 ここで説明するのは、もちろん医薬品審査に関わる「優先審査」である。


 医薬品の優先審査制度は、93年から制度化された。承認申請された医薬品が、①希少疾病医薬品、②その他の医療上、特に必要性が高いと認められるものに該当する場合に、他の医薬品の審査に優先して審査する。これは、薬事法第14条第5項の規定に基づいている。


 電車に喩えれば、普通ではなく特急ないしは急行に該当するのが優先審査制度である。従って、新薬開発企業にとって、開発品が優先審査品目の認定を受けることは非常に重要な意義がある。


 優先審査の適用を受けようとする場合は、新医薬品の承認申請書の備考欄に「希少疾病医薬品に指定」(指定品目)または「別記の理由により優先審査を希望する」と記載し、医薬品医療機器総合機構に提出する。希少疾病医薬品以外は優先審査品目に該当すると判断した理由を承認申請書に添付する。総合機構は専門家の意見を聴取して速やかに適用の可否の意見をまとめ、厚生労働省に報告、医薬食品局審査管理課は当該報告をもとに「適用の可否」を決定する。


 希少疾病医薬品以外の優先審査品目は「重篤な疾病を対象とする新医薬品であって、医療の質の向上に明らかに寄与すると認められるもの」と決められている。つまり、①「適応疾病の重篤性」および②「医療上の有用性」を総合的に評価し適用の可否が決まる。


 ①適応疾病の重篤性は、*「生命に重大な影響のある疾患(致死的な疾患)であること」。*「病気の進行が不可逆的で、日常生活に著しい影響を及ぼす疾患であること」。*「その他」の3群に分類して評価する。


 ②医療上の有用性については、*「既存の治療法、予防法、診断法がないこと」。*「有効性、安全性、肉体的・精神的な患者負担の観点から、医療上の有用性が既存の治療法、予防法、診断法により、優れていること」に分類して評価される。


 このように優先審査品目になるにはルールは難しく書かれているが、「重篤な疾患に対して画期的な意義があるかどうか」で決められる。ひとつの品目で優先審査対象効能とそれ以外の一般効能の両方を持つ場合は、それぞれ別個の申請をすることになっている。


 ところで、通常の審査品目と優先審査品目は承認審査期間にどの程度の違いがあるのだろうか。


 医薬産業政策研究所のレポートによると、00年から05年の平均値でみると、通常審査品目が27.8ヵ月(米国‥19.7ヵ月)に対し、優先審査品目が14.1ヵ月(米国‥13.4ヵ月)であり、優先審査品目が約1年余も早くなっている。品目数をみると通常審査品目208品、優先審査品目94品(31%)で、この2年は優先審査品目が増えている。


 優先審査品目は、日本の医療に必須の新医薬品であり、承認審査だけではなく、開発段階からも迅速化するために「優先的な治験相談制度」が、総合機構に設けられている。


 より早く患者さんにという仕組みが作られているが、さらなる実績の向上が期待されている。ちなみに、医療機器も、まったく同じ制度になっている。


神原秋男 著
『医薬経済』 2007年4月1日号

2023.07.20更新