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クリニカルパス(クリティカルパス)

2023/08/08 会員限定記事

言葉が動かす医薬の世界 43

 「クリニカルパス」とは、ある疾患の入院患者(主に)に対してその疾患を治すうえで必要な治療や検査、ケアなどをタテ軸に、時間(日付)をヨコ軸にとり、まとめられた「診療スケジュール表」を指す。診療過程を体系的にまとめた「診療実施計画表」である。Clinicalは「臨床の・病床の」、Pathは「小道・通路・コース」であり、そのままの意味だ。


 クリニカルパスは実は「生産工程管理」に使われている「クリティカルパス」(Critical Path)から転用された用語だ。そのためにもとになったクリティカルパスを使う人もいる。クリティカルパスは製造工程の原価低減のための「ギリギリの工程」という意味で「臨界進路」と訳されている。クリティカルには「危機の、危ない、重大な」という意味があり、このニュアンスは、医療の世界に馴染まないと言う点から、一般にはクリニカルパスが使われている。


 クリニカルパスは、医師や看護師、薬剤師、栄養士、理学療法士、臨床検査技師、放射線技師、病院管理者らが一体となって作成し、運用するところが重要である。つまり、パスの作成には病院の全職種の人が参画し、それぞれの専門性を発揮して、効率的な医療が提供できるように設計する。この作成プロセスと運用を通じて、お互いの職種に対する理解が深まり、コミュニケーションやチームワーク、教育効果が高まるという効用がある。


 もちろん、クリニカルパスの第一の目的と受益者は患者である。入院と同時に、または入院前に診療スケジュールが提示されるのだから、患者にとってこれほど素晴らしい情報提供はない。患者は、「いつ、何を、何のためにするか(またはされるか)」を知ることができ、安心・信頼して入院生活を送り、目的を理解して診療に協力することができる。


 また、各種の医療関係者と患者が、一体となって診療に取り組むことができ、仕事の効率化と安全の確保に貢献することもできる。


 このように、クリニカルパスはメリットが多い。しかし、それが全国の病院にまで普及していないのはなぜだろうか。それにはさまざまな理由が上げらるが、最も厄介なのはクリニカルパスを作ることだ。診療プロセスは主治医をはじめそれぞれの専門職能を発揮する場であり、それを調整して日程が入った1枚のスケジュール表にまとめることは大変な作業。しかも患者に知らせるのだから精度の高さも重要だ。実際には、クリニカルパスの目標通りに診療の手順が進まない場合がある。これを「バリアンス」と呼ぶ。この場合、バリアンスの原因分析を行い、次のクリニカルパスの改善につなげる仕組みも作られている。


 クリニカルパスは83年に米国でDRG/PPS(診断群別定額支払方式)が導入され、在院日数の短縮を迫られたことを機に発展してきたものである。


 日本でクリニカルパスが導入された目的には「インフォームドコンセントの充実、チーム医療の推進、在院日数の短縮、医療の質の管理、職員の意識改革、業務の効率化」などがある。


 クリニカルパスの導入・運用・改善を支援する目的で「日本クリニカルパス学会」が99年に設立され活動している。医療の標準化の重要性が指摘され、患者ケアの質的充実と医療の効率化という、相反する目標を追求する効果的な医療手段として、クリニカルパスは機能する。


 日本の津々浦々の病院にまで速やかにクリニカルパスが普及することを望む。


神原秋男 著
『医薬経済』 2007年5月1日号

2023.07.20更新