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ブロックバスター

2023/08/17 会員限定記事

言葉が動かす医薬の世界 47

 「ブロックバスター」(Blockbuster)とは市街の1ブロックを破壊するという意味から、「大型高性能爆弾」を原意とする。転じて、映画や本の超大型作品に使われていたが、医薬品業界でも「ブロックバスター・ドラッグ」という用語で使われていた。その後、業界内ではドラッグを略して、世界的超大型製品を単に「ブロックバスター」と呼称するようになった。


 ボストン・コンサルティング・グループはブロックバスター・ドラッグを「世界市場で年間売上げ5億ドル以上の医薬品」と定義した(04年)。しかし、5億ドル以上の製品はあまりに多く、さらに増加しているために、最近では年間売上げ10億ドル以上の製品をブロックバスター品とするのが一般的になった。世界の医薬品市場を動かす大型製品群という概念で捉えれば10億ドルは妥当な線と言えようか。ただし、これは世界医薬品市場の分析・展望や医薬品マーケティングなどに活用するために設けられた、ひとつの区分用語である。あくまでも売上額をベースにしたもので、医薬品の絶対的な使用量や処方件数とは質的に異なることに留意したい。


 ブロックバスター第1号は86年のH2ブロッカーを嚆矢とする。その後20年間にブロックバスター品は100品目を越えた。


 最近発表された「吉川医薬経済レポート」(フォーカス6月号)から06年度ブロックバスター品の中身を紹介しよう。05年度に99品目を数えたブロックバスター品は06年度に118品目に増加している。


 トップは、長年の王者であるリピトール(高脂血症薬・ファイザー)で、128.86億米ドル、2位のセレタイド(喘息・GSK)は61億ドルで、倍以上の差をつけている。以下、ベスト10品目は、③オメプラール(抗潰瘍薬・アストラゼネカ)、④ノルバスク(Ca拮抗剤・ファイザー)、⑤ノボリン(インスリン・ノボノルディスク)、⑥ジプレキサ(統合失調症・イーライリリー)、⑦ディオバン(ARB・ノバルティス)⑧リスパダール(統合失調症・J&J)、⑨アラネスプ(EPO・アムジェン)、⑩リツキサン(がん・ロシュ)となっている。


 ブロックバスター118品は「30億ドル以上・20品目、20〜30億ドル・23品目、10〜20億ドル・75品目」に分布している。これを適応領域別に見ると、がん14品、高血圧症12品、消化性潰瘍9品、高脂血症7品に続き、リウマチ、糖尿病、うつ病、多発性硬化症、てんかんなどとなっている。


 日本オリジンのブロックバスターにはアクトス、アリセプト、ブロプレス、プログラフ、パリエット、オルメテック、タケプロン、リュープリンの8品が入っている。


 ブロックバスターの強敵はジェネリックだ。特許期限切れで一挙に脱落するのが現況である。


 「みずほ産業調査」(07.2.25)は「主要製薬企業の成長は今後もブロックバスター抜きには考え難いが、その中心はマス・マーケティングに依存した大規模市場における競争型ブロックバスターから、専門性が高く競合優位性が発揮できる独自型ブロックバスターへ変化していくと考えられる。対応する市場もプライマリーケアーからスペシャリティへと移行し、マーケティング環境も変化する」と、ブロックバスターの質的転換が図られていることを示唆している。最近では「ニッチバスター」という言葉も出てきた。


 オリンピックのメダルに該当するブロックバスターという単純な言葉が、新医薬品創製や医薬品マーケティングに強いインパクトを与えていることは間違いない。


神原秋男 著
『医薬経済』 2007年7月1日号

2023.07.21更新