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バイオシミラー

2023/08/18 会員限定記事

言葉が動かす医薬の世界 48

 組換えヒト成長ホルモン(ソマトロピン)の後発製剤、オムニトロープ(サンド)について、オーストラリア医薬品局は04年9月、欧州医薬品審査庁(EMEA)は06年4月、米国食品医薬品局(FDA)は06年5月末に承認した。承認の実態を克明に記したのは、オムニトロープの承認審査が異様なプロセスを辿ったからである。


 欧州は承認取得方法の法的根拠の問題から論議が繰り返され、米国ではサンドがFDAを提訴し、連邦地裁は判断を早めるようFDAに指示する珍しい経緯を経て承認された。この背景にはバイオ医薬品の特許が切れた製品の「後発生物類似医薬品」の評価法と取り扱いの法制化が遅れていることがある。一般的には「バイオジェネリック薬」または「バイオ後発医薬品」に該当する製剤でありながら、ジェネリックや後発医薬品とは言わないところに生物学的製剤の特殊性と難しさがある。


 今日の大半の医薬品は低分子の有機成分が主薬である。これらのジェネリック(後発医薬品)とは、先発品と同一の成分(立体構造を含めて)を含有し、製剤的同等性を検証するために「生物学的同等性試験」を通過したものである。すなわち、ジェネリックとは先発品と成分が同一で、作用(効果と安全性)が同等な医薬品を指す。


 ところが、生物学的製剤については、先発品と比較して、主成分の同一性・同質性、作用の同等性を実証する科学的方法と評価法は確立していない。また、バイオ製品の主成分がまったく同一でなくても作用面は同等性を示す製剤が創られる可能性は高い。この意味から、欧州ではバイオジェネリックとは言わないで、「バイオシミラー」と表現し区分した。


 バイオシミラー(biosimilar)とは「生物由来製品の後発品」を意味し、「後発生物製剤」と訳されている。米国ではフォローオン・バイオロジクス(後続タンパク質性製品)という広いカテゴリーのなかに、先発品に酷似したフォローオン・シミラーバイオロジクスがあると位置付けた。最近では「バイオシミラー」の言い方が世界的に定着してきた。


 バイオシミラーの承認審査上の問題点は品質の同等性・同質性の評価法(製造工程を含めて)と非臨床試験や臨床試験の同等性・同質性の実証方法と評価の仕方が挙げられる。高次構造と構造活性相関や医薬品としてのタンパク質の免疫原性など究明すべき課題は多い。一般のジェネリックとは異なり、同等性を実証するには一定の臨床試験は必須であろう。臨床試験の承認審査条件のレベルと範囲がどう決められるか、さらに全体の許可基準がどう制定されるか非常に注目される。


 欧米とは違い、日本では薬価の決定方法も課題になる。一般のジェネリックのように先発品薬価の7割にするか、生産・研究開発面の投資を配慮して新しい計算法を策定するかも議論を呼ぶであろう。ちなみに、オムニトロープはドイツでは20%安い価格設定である。いずれにしてもバイオ製品は薬価が高いから、医療費や企業業績に及ぼす影響は大きい。


 最近、サンドは成長ホルモンに続き、エリスロポエチン製剤をEMEAに申請した。またヒトインスリン、インターフェロン、G−CSF、ある種の抗がん剤などが後発生物製剤研究の標的にされている。複合タンパク質性の後発生物製剤もできるだろうか。


 バイオシミラーの研究開発を、虎視眈々と進めている日本企業も少なくない。「バイオシミラー」なる言葉は薬業界に新しい話題と風雲を呼び起こすであろう。


神原秋男 著
『医薬経済』 2007年7月15日号

2023.07.21更新