「違法ドラッグ」とは「麻薬又は向精神薬には指定されておらず、麻薬又は向精神薬と類似の有害性を有することが疑われる物質(合成品・天然物由来品を含む)であって、専ら人に乱用させることを目的として製造・販売されるもの」と定義されている。このように、法的な定義は難解であるが、人が摂取すると、陶酔感、幻覚、興奮作用、多幸感などを高めると称して販売されている薬物群を指す。
98年頃から麻薬・覚せい剤などに指定された成分を含まない薬物や植物〜違法ドラッグ〜が、一部のマニアの間で流行し始めた。
違法ドラッグは精神系に対して興奮作用を示し、眠気が消え、鋭敏になり活力が溢れるような状態を期待して使用する興奮系ドラッグ(覚せい剤的)、精神系に対して抑制的な作用や陶酔、落ち着き、のんびりした気持ちを期待して使用する抑制系ドラッグ(ヘロイン的)、視覚や聴覚に作用し感覚の変化、神経過敏などの幻覚作用を期待する幻覚系ドラッグ(大麻的)の3タイプがある。
これらは「研究用化学試薬」、「工業用試薬」、「芳香剤」、「ビデオクリーナー」などと称して販売し、本来の使用方法を隠蔽するとともに、薬物の作用を「注意事項」に装って製品や広告に記載している。
使用形態は錠・カプセル剤、ドリンク剤、液剤、シンナーのように吸入するもの、タバコやお香のように吸うもの、クリームのような塗るものなど多様だ。アダルトショップ、特定の輸入雑貨を取り扱う店舗、露天商やインターネットを通して販売されている。
違法ドラッグによる事故・事件は昏睡、錯乱、飛び降り、薬物中毒、同居者の刺殺、死亡などと広範である。また、薬物の怖さや健康への悪影響を知らない若者を中心に広がり、違法ドラッグを通じて薬物乱用の罪悪感が薄れ、麻薬や覚せい剤へのゲートウェイ(入門)ドラッグともなっている。
恐ろしい違法ドラッグの実態だが、05年まで明確な法的規制はなかった。後述の検討会を経て、昨年薬事法が改正され、第1条の目的に「指定薬物の規制に関する措置を講ずる」を追加、第2条の定義で、違法ドラッグの有効成分を「指定薬物」とした。指定薬物の扱いは「製造等の禁止、広告の制限、指定薬物である疑いのある物品の検査、廃棄・回収措置」などと規定している。
違法ドラッグは「合法ドラッグ」と呼ばれていた。麻薬や覚せい剤などの法律に触れないとして、これを扱う業者や使用者の間で、使われていた用語である。一方、00年頃から行政関係では、法規制の間をすり抜けた薬物として「脱法ドラッグ」という用語を使用し、調査や監視を行ってきた。
04年2月、厚生労働省は「脱法ドラッグ対策のあり方に関する検討会」を立ち上げた。検討会で「脱法ドラッグ」の呼称は適切でないとして「違法ドラッグ」に変更された。理由は、薬事法違反である疑いが強いにもかかわらず、脱法では法の網を潜り抜けた製品という印象を与え、法の規制が及ばないかのような誤ったメッセージを与えかねないためだ。また、違法ドラッグは脱法ドラッグとは違うという誤解や混乱を防ぐため、当面「違法ドラッグ(いわゆる脱法ドラッグ)」と括弧書きを付すことにした。検討会の名称に使っている呼称そのものを、変更するという異例なことであった。
それにしても、「合法」→「脱法」→「違法」が、まったく同じものを指しているとは後世の人には理解できまい。言葉は時代とともに変わるというが、使う人や考え方・見方によっても大きく左右される。
神原秋男 著
『医薬経済』 2007年8月1日号