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高齢者

2023/08/22 会員限定記事

言葉が動かす医薬の世界 50

 今まで「老人保健制度」で医療を受けていた75歳以上の方は、来年4月からまったく新しい「後期高齢者医療制度」に移行する。この健康保険法改正(18.6.21)は歴史的にみて画期的であり、その影響も甚大と推定する。ここでは改めて「高齢者とは?」という原点を見つめてみたい。


 高齢者とはWHOの定義では65歳以上を指し、65歳〜74歳までを前期高齢者、75歳以上を後期高齢者という。人口の年齢構造を論ずるときには0〜14歳までを年少人口、15〜64歳までを生産年齢人口、65歳以上を高齢人口と区分している。わが国の高齢化の現状は、5人に1人が高齢者である。


 わが国の総人口は06年10月1日現在、1億2777万人で65歳以上の高齢者人口は2660万人、総人口に占める割合(高齢化率)は20.8%(前年20.1%)だ。高齢者人口は、いわゆる「団塊の世代」が65歳に達する12年には3000万人を超え、18年には3500万人に達し、その後、42年に3863万人でピークを迎え、以後、減少に転じると推計される。


 20.8%の高齢化率も上昇を続け、20年29.2%、55年には40.5%と、2.5人に1人が高齢者の社会となる。後期高齢者も増え続け、05年9.1%が20年には15.3%、35年20.2%、50年には24.9%、4人に1人が75歳以上の後期高齢者社会になるという。


 高齢化率を世界各国と比較すると日本は世界一である。05年、日本は20.1%、イタリア19.7%、ドイツ18.8%、英国16.1%、米国12.3%、韓国9.4%、中国7.7%、インド5.0%などとなっている(07年「高齢社会白書」より引用)。


 ところで、高齢者は医薬品需要の角度から見ると非常に大事な客層である。しかも、高齢者の増加はその重要性を一層高めてきている。高齢者では一般に肝・腎・心などの生理機能の低下が見られ、薬物の吸収・分布・代謝・排泄に影響があることから注意が必要だ。また、高齢者の生理機能は成人や小児と比べ、個体間の差が大きく、例えば、腎排泄型の薬物投与は個別に行う必要がある。このような意味から、医薬品の「使用上の注意」の記載に関して、「高齢者への投与に関する医療用医薬品の使用上の注意の記載について」という通知(92年4月)が出ている。


 また、高齢者に使われる新薬の開発にはICHに基づいた「高齢者に使用される医薬品の臨床評価法に関するガイドライン」がある。高齢者を対象とした臨床試験は原則として後期第㈼相以降が適切で、用法・用量または有効性・安全性の評価に特別の配慮をすることや薬物動態試験、薬力学的試験、相互作用試験について注意を喚起している。実際の薬物療法の場でも「高齢者高血圧の治療指針」、「高齢者尿失禁ガイドライン」、「高齢者うつ病診療のガイドライン」などに見られるように、高齢者特性を配慮した診療が求められている。


 来年施行の「後期高齢者医療制度」では保険料徴収は市町村が行い、財政運営は都道府県単位の広域連合が担当する。財政は高齢者保険料1割、医療保険者からの支援金約4割、公費約5割の比率で負担する。高齢者のQOLを重視した医療サービスが提供される。


 高齢者層は医薬品マーケティングの極めて重要な標的である。しかも市場背景は拡大基調にある。企業は高齢者専用の医薬品情報を拡充し、適切に提供し、信頼を勝ちとることが肝要。後期高齢者医療制度がもたらす医薬品需要への影響も注目される。医薬品マーケティング上、考えること行うことが尽きない『高齢者』である。


神原秋男 著
『医薬経済』 2007年8月15日号

2023.07.21更新