一般の英和辞書にはエンドポイント(endpoint)とは終局点、終点とある。医薬の領域では原意を介しているが「評価項目」または「評価指標」と訳されている。臨床研究のデザインを考える場合や治療の方法を評価するときに、どのようなものを観察・測定して、効果や副作用を診るかという項目がエンドポイントである。
臨床試験や治験においてエンドポイントを何に決め、どのように観察・測定するかは極めて重要である。決められたエンドポイントにより新薬開発に成功または失敗した経験談を聞くことは多い。同一系統薬の新薬開発は別にして、まったく新しいタイプの治験薬や画期的新薬の治験ではエンドポイントにより成否が決まることは少なくない。今日の大型新薬のなかにエンドポイントのとり方に失敗し、再試験により復活した新薬も見られるように、エンドポイントは治験の成否の鍵を握っている。
具体的なエンドポイントのタイプには死亡率、発症率、再発率といった「比率」を見るもの、測定値(血圧、コレステロール値)などの「数値」を見るもの、生存期間、入院期間など「時間」を見るもの、痛みがなくなるなど症状の緩和の「変化」を捉えるものがあげられる。最近はQOLも取り入れられてきた。
いずれにしても、エンドポイントは病態と相関することが医・薬学的に科学的に検証され、妥当性や信頼性が確保されたものでなければならない。また、エンドポイントは医学の進歩により変わることも注意したい。例えば、高脂血症(脂質異常症)の診断基準のウエイトが、総コレステロール値からHDLコレ値、そしてLDLコレ値に変化してきているように医学的診断・治療法の進歩に対応したものでなければならない。以前、再評価により脳循環改善剤の大半がドロップしたことがあるが、これはエンドポイントの進歩によるとの指摘もある。
臨床試験(治験)のエンドポイントには「真のエンドポイント」と「サロゲート(代用)エンドポイント」がある。真のエンドポイントには死亡率、完全治癒率、疾患の発生率、QOLの変化、副作用の発現率などの例が挙げられる。サロゲートエンドポイントとは短期間に観察評価が難しい真のエンドポイントに代えて、臨床上重要な結果に科学的に関連付けられるエンドポイントで、暫定的に用いるエンドポイントを指す。例えば血圧、血糖値、腫瘍の大きさ、骨重量などがある。さらに、プライマリーエンドポイント(主要評価項目)とセカンダリーエンドポイント(副次的評価項目)がある。これはプロトコルに事前に明示する必要がある。
近年、多くの大規模臨床試験の結果が公表され、EBMの意義が説かれ、広く実際の医療に取り入れられてきた。そのため臨床試験の結果を解釈するうえで、エンドポイントの厳密な定義とその判定方法について、批判的吟味を行うことが一層重要になっている。
生活習慣病をはじめ、今まで臨床試験のエンドポイントは合併症の二次あるいは一次予防だった。さらなる重症化、悪化、再発を止めるものだったが、最近は原疾患の発症予防、原疾患の一次予防につながる新しいエンドポイントの探索や研究が進められている。
疾患の発症の根幹となる病因解明に伴い、まったく新しいタイプのエンドポイントが採択される日も近いと推測される。古くから使い慣れたエンドポイントという言葉に、病態発症の根幹要因の新しい中身が盛られ、画期的新薬開発の原動力になることを期待したい。
神原秋男 著
『医薬経済』 2007年10月1日号