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コンパッショネート・ユース制度

2023/08/25 会員限定記事

言葉が動かす医薬の世界 53

 仮に「わが子が治療法のない重篤な病気になり、日本には治療薬がないが、外国では有効な治療薬が販売されている」なら、あなたはどうするだろうか。


 現在、法的には個人的な輸入や主治医を通した医師個人の輸入が認められている(ほとんどに「薬監証明」が必要)。しかし、これらのルールに精通した医師はきわめて少なく、また、個人輸入ができたとしても、主治医が責任を持って使ってくれるかどうかなど、かなり厄介な問題があって動きがとれず、諦めざるを得ないのが一般的な実態であろう。


 これは、一言で言えば「未承認薬」の使用の問題である。未承認薬は当然のことだが、保険診療はもちろん、薬事法で使用が禁止されている。それでは重篤な疾患で代替治療法がなく生命に関わる状況で、外国に治療薬がある場合にどのように対応すべきか。放任することが人道上許されるのだろうか。これに答えるルールを決めたのが、「コンパッショネート・ユース制度」(CU制度)である。


 コンパッショネート(compassionate)は「慈悲深い、温情的な、情状酌量した」などの意味で、コンパッショネート・ユースは「人道的な使用」「倫理的使用」と訳されている。


 CU制度は米国、欧州連合では法制化されている。米国では①治験薬の例外的提供(プロトコルの対象外患者)、②緊急患者IND(医師が未承認薬を使う場合)、③治療IND、の3つの制度があり手続きも決められている。いわゆる治験の枠組みのなかで行われているが、規制が厳しいとの指摘もあり見直しが検討されている。


 EU(欧州医薬品審査庁=EMEA)は一定の範囲の医薬品(バイオテクロジー由来品、エイズ、がん、神経変性疾患、糖尿病、希少疾病用薬など)について加盟国から申請を受け、EMEAが適否を判定し勧告、加盟国はそれに従うシステムになっている。


 日本は世界各国に比較し、ドラッグラグが著しく、長い状況にあるために、特定の患者からCU制度を設けてほしいという要望が強い。そこで、厚生労働省の「有効で安全な医薬品を迅速に提供するための検討会」で、「国の承認を経ない未承認薬の使用」の課題が検討され、CU制度の導入が提言された。


 もとよりCU制度、すなわち未承認薬の使用とは、法的には許されていないことを人道的・倫理的視点から、特例措置、あるいは例外的対応として容認するものである。従って、薬事法など現行の法体系とすり合わせたルール作りが行われることとなる。なお、CU制度について検討会は次のような事項を指摘している。


 医薬品は品質、有効性、安全性を確保するため、治験結果などを科学的に検証して承認することが基本でありこの原則は堅持する。重篤な疾患で代替治療法がない場合などに「治験を実施して承認する」との原則を阻害しない範囲で未承認薬の使用を認める。また、CU制度は副作用被害救済制度の対象外である。費用負担を製薬企業に求めるのは適当ではない。一方で、医師以外の者による個人輸入については、保健衛生上の観点から一定の制限を加えるべきである、とも提言している。


 抗がん薬をはじめ未承認薬の輸入使用は年々増加している。未承認薬をいかに少なくするか、ドラッグラグをなくすか、さらに希少疾病用薬の扱いなどCU制度以前になすべきことも多い。


 とはいえ、迷える患者に役立つ「CU制度」の早期確立を願うものである。


神原秋男 著
『医薬経済』 2007年10月15日号

2023.07.28更新