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ブリッジング試験

2023/09/05 会員限定記事

言葉が動かす医薬の世界 60

 ブリッジング試験はブリッジングスタディ(Bridging Study)ともいわれる。その名の通り、外国の臨床データを日本に橋渡しをするために必要な試験のことを意味する。すなわち、海外での臨床試験を活用し国内での重複試験を避け、早期に承認取得するために必要な国内で行う試験を指す。


 グローバル時代になったためではないが、人類の病気の予防や治療に使われる医薬品は共通の資産である。医薬品は世界のどこの国の患者にも提供されるべき公共財的な役割を担っている。


 実際には各国の承認審査の規制要件を満たしたものが医薬品として認められる。また、医薬品のなかには民族的要因(民族差)により、有効性、安全性、用法・用量などが異なるものがあり、各国の審査はこの面をも補完している。


 一方、医薬品は第㈵相試験から第㈽相試験にいたる膨大な臨床試験データにより、有効性と安全性を検証した成績をベースに、審査される。これらの膨大な臨床試験を、新開発品について、各国がそれぞれに独立してすべての臨床試験を行うことは、ヒト試験という倫理的・経済的にみても合理的ではない。そこで外国で行われた臨床データを承認審査資料として活用することがICHで検討され、「ICH‐E5ガイドライン」としてまとめられている。


 そこには外国臨床データを使用し医薬品の承認申請を行う際に、医薬品の有効性・安全性に与える民族的要因の影響を科学的に適正に評価するための基本的考え方や当該外国臨床データの日本人(新地域)への外挿(代用させる)可能性を評価するために国内で実施すべき臨床試験が示されている。


 また、ブリッジング試験の定義として、「外国臨床データを日本の住民集団に外挿するために、日本で実施される臨床試験であり、日本における有効性、安全性及び用法・用量に関する臨床データ又は薬力学的データを得ることを目的として行われる試験である。有効性に関するブリッジング試験が日本人の薬物動態に関する追加の情報を与える場合もある。有効性に関する臨床データのブリッジング試験を必要としない場合には、日本における薬物動態試験がブリッジング試験とみなされる場合もある」と説いている。


 なお、民族的要因(民族差)には、外因性民族的要因(医療習慣や食事、喫煙、飲酒、社会経済的地位、服用遵守など)と内因性民族的要因(遺伝子型、年齢、性、身長、体重など)がある。


 E5ガイドラインを受けて日本は「外国で実施された医薬品の臨床試験データの取扱い」(98・8・11)を通知している。


 ブリッジング試験として実際にどんな試験が必要かというと、開発品の薬物動態や薬力学的性質が日本人で異なるか、それが有効性や安全性に影響するかを解明することが第一義である。さらに化学構造や代謝経路、作用機序、薬理学的分類上の特徴などに民族差が見られる場合があったり、外国臨床データで解明された情報によっても異なってくる。従って、ブリッジング試験の具体的内容は開発品個々によって決められる。


 日本人の薬の用量の問題や薬の効き目と安全性に対する価値観の違いなどがしばしば問題になる。


 ブリッジング試験による外国データの外挿よりも、一歩前進した開発法として、最近では「国際共同治験」の必要性が強調されている。まさに世界同時開発・同時発売への歩みである。ドラッグラグ解消への秘策とされているが、民族差の解明を同時に進めなければならない壁も残されている。


神原秋男 著
『医薬経済』 2008年2月1日号

2023.07.28更新