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有害事象

2023/09/07 会員限定記事

言葉が動かす医薬の世界 62

 「有害事象」(adverse events)とは母集団で発生するまたは検出される「生体にとって好ましくない出来事」すべてを指す。従って、薬物を投与して患者に起こるあらゆる好ましくない出来事を有害事象という。投与した薬物との因果関係の有無に関わらず発生した医学的事象で、患者にとって不都合な症状・所見はすべて有害事象である。例えば、抗生物質を服用している患者が骨折したとすると骨折は有害事象として記録される。


 新薬開発の治験においては、すべての有害事象が調査・記録される。それらの有害事象を詳細に検討・評価をして、治験薬との因果関係の有無を検証する。薬物との因果関係が「有り」とされたものは「薬物有害反応」(adverse drug reactions、「薬剤性有害事象」とも言う)に分別される。


 治験中に発生した有害事象が薬物に起因する反応か否かを決定することは重要な判定業務である。これには臨床医による同定、アルゴリズムあるいは診断基準による同定、Bayes法による同定などの専門的方法がある。実際には有害事象の内容、発現・消失時期、発現時薬物用量、発現と薬物投与の時間的関係、薬効分類、程度、薬の処置、併用薬、転帰などを分析し薬物との関係の有無を判定する。


 ところで、一般的に薬とは全く関係のないと考えられる好ましくない出来事を、治験や薬物療法中に、調査するのはなぜだろうか。実は、この調査が薬による有害反応を見出すための、非常に有力な試験方法になっている。


 例えば、抗ヒスタミン剤の多くに、「自動車の運転等危険を伴う機械の操作に従事させないよう十分に注意すること」という「基本的注意」が書かれている。抗ヒスタミン剤服用者の自動車事故の原因が、実は当該薬の中枢抑制作用によるという事実が解明されたからである。これは薬剤服用時の有害事象を忠実に調べた結果、判明したものである。有害事象のすべてを監視・評価することの意義と重要性を示している好例である。


 しかし、有害事象の内容と薬との因果関係の有無を立証することは困難な場合が少なくない。最近では、インフルエンザ治療薬タミフルと異常行動の事例がある。タミフルの服用により異常行動や突然死が起きると報道され大問題になった。厚労省は研究班をつくりインフルエンザ患者約1万人の大規模調査(後向き調査)を実施したが、「現時点でタミフル服用と異常行動の因果関係を示唆するような結果は得られていない」との報告に留まり、今後も疫学調査や臨床試験などを継続し「早期に最終的な結論を出す」という見解であった(07年12月)。大調査を行ったにも関わらず、因果関係の有無は検証できなかった。これは、インフルエンザは病態として異常行動を起こす(有害事象)ことがあり薬物の影響(薬物有害反応)との区分がつけ難いためである。同じような事例として、うつ病と抗うつ薬の「自殺思考」の例が挙げられる。いずれにしても、治験や薬物療法における有害事象の調査は、薬の安全確保のために必須の重要な調査事項である。


 ところで、ここで云う薬物有害反応という用語は、一般には副作用と言われているが、厳密には薬の副作用とは薬の主作用に対比した言葉で、ディメンションが違うことを留意したい。


 閑話休題…かつて医療費高騰を危惧し医学部定員を削減、現在は医師不足を招いている。治験改革のため品質過剰なGCPを施行し、治験の空洞化を招いた。これをも「政策」の有害事象と云うのは正しくないと思うが?


神原秋男 著
『医薬経済』 2008年3月15日号

2023.10.17更新