02年8月、ある業界誌に会話物語「追い風を生かせるかジェネリック・ファーマ」という連載を初めた。そこにはゾロ品、ゾロ品という用語を頻繁に使っていた。ところが発行後すぐに、著名なジェネリック会社の社長から直接編集長宛に痛烈な非難とジェネリック品と書き換えよと電話があった。
当時はピカ新、ゾロ新、ゾロ品という言葉が交わされていた時代で、会話物語に臨場感を醸し出す意味から使用したものであるが、ジェネリック業界の当事者にはそのようには思えなかったようである。「ゾロ品ではなくジェネリック品である」と激高する社長の様相に、業界人としての真摯なプライドと言葉を大事にする経営者の姿勢を垣間見たような気がした。
このような業界人の信念とテレビコマーシャルなどの影響か、「ジェネリック医薬品」の認知状況調査(沢井製薬)によると、認知度は72%になり、今日では広く市民権を得た用語になりつつある。
ところでジェネリック品とはgeneric name productからきており、「一般名製品」を指す。厳密には商品名がついた後発品には当てはまらない。しかしジェネリック業界の牽引力により、この呼称は定着してきた。行政関連の用語にジェネリック品は使われず「後発品」が使用されているのはこの意味もあろう。ちなみに、ゾロ品とはme-too drugsの日本語訳で、これをゾロゾロ薬と訳した人の才気煥発なところに敬服する。
3つの名称があるジェネリック品であるが、ジェネリック品に対してブランド品、後発品に先発品、ゾロ品にピカ新というそれぞれの対照語を持つところは面白い。この原稿を執筆中に、今後申請する後発品の販売名を(一般名+企業名)とする課長通知が出た。ジェネリック品の本来の意味となりスッキリするが、業界に与える影響は少なくないであろう。
実はジェネリック品に関して忘れ難い思い出話がある。
64年頃であるが、上司のK常務が、アメリカで「一般名医薬品」が猛烈に伸びている。当社も一般名医薬品をやろうと提案・命令された。当時、一般名医薬品とは何を指すのか、まったく見当がつかず、図書室で苦労した。それから2〜4年後に、5品目の一般名+企業名の販売名をつけた製品を開発発売した。その頃、新薬企業がジェネリック品を発売したことで注目されたが、営業的には成功しなかった。当時の価格体系や営業政策については専門外で覚えていない。いずれにしても、40年前にジェネリック品の効用を察知し、敢然と挑戦されたK常務の先見性に畏敬の念を抱く。
閑話休題。ジェネリック品はここ5年間ぐらい業界の話題をさらってきた。この間、保険診療上の優遇策や推進策がとられてきた。それにもかかわらず、欧米のようには普及していない。そこには日本独特の医療文化もあろうが、業界としては、安定供給、情報提供など医療関係者に信頼される基盤の構築が必須である。とくに来年の診療報酬改定では後発品の更なる推進策が検討されている。この機会はジェネリック品にとり、千載一隅のチャンスである。
黒柳徹子、加山雄三、高橋秀樹、岸恵子らの豪華布陣に頼り医療消費者に訴えるのみでなく、処方権や調剤権を持つ医療関係者の信頼を勝ち取ることが先決であろう。
一般に専門用語が一般用語になる時は急速に普及することが多い。ジェネリックなる言葉は長い年月を経て、しかも強力な広告やパブリシティを通して普及してきた。この専門用語の一般化というプロセスは興味のある事象と思う。
神原秋男 著
『医薬経済』 2005年10月15日号