先日取材した『ROBOTECH〜次世代ロボット製造技術展』にいたく感心した筆者(坪井智哉と同世代)は、その帰りに都内某大書店へ立ち寄った。ロボット技術の進展が世界と医療をどのように変える可能性があるのかを知りたかったからだ。科学、工学の棚にはロボットに関する書籍がズラリと並ぶ。その棚から目ぼしいモノを片っ端からカゴに入れレジに向かい、「全部、配送でお願い!」と言って領収書を切った。
……それから一カ月。
ハードカバーからムック、雑誌まで、ロボットに関する数多くの書籍を読んでみたものの、「いまいちピンとこないなぁ」と思っていたときに、配送された本の下に眠っていたのが『「自衛隊」無人化計画』(兵頭二十八著。PHP研究所)だった。
タイトルと表紙を一瞥して、ほとんど中身に期待せずに読み始めたものの……10分後にはコーヒーを入れなおして、貪るように読んでしまった。類書には書かれていなかった筆者の知りたいこと——ROBOTECHで見てきたロボットの現状と可能性。少子高齢社会におけるロボットの役割——について、あますところなく書かれていたからだ。
「これは著者にインタビューしなければ!」
と思い立ち、様々なツテを使いながらコンタクトを取ること成功。日本で唯一の軍学者に、ロボットと医療をテーマとするインタビューを試みた。
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筆者——ご著書の『「自衛隊」無人化計画』によりますと、外科手術用のリモコン・ロボットを、米軍の病院が積極的に導入しているそうですね。
兵頭二十八氏(以下、兵頭)——内視鏡手術をリモコンで実施する「daVinci」という名のロボット外科手術システムですね。名外科医がアメリカ本土に1人だけしかいなくても、通信さえ接続できれば、そこから全世界のこの手術ロボットをリモコンして、執刀ができるわけです。そもそも内視鏡手術は、日本が世界の先頭を走ることもできた分野だったと認識していますが、それをリモコンのロボットに進化させる段階に入るや、米国の医療産業が独走しています。日本が「ロボット先進国」だと威張れるのは、人の命にかかわらぬ分野だけの話です。経済産業省はそこが見えていないでしょうね。軍用と医療用では、あきらかにわが国は「ロボット後進国」ですよ。
筆者——表皮を大きく切開せずに、小さな孔からチューブを通して、その先端のCCDカメラでモニターしながら、やはり先端にとりつけられた手術具で切除術や縫合術を実施できる、そういう柔軟なロボットですね。
兵頭——はい。とにかく侵襲が小さくなるので、術後の患者さんへのさまざまな投薬もトータルで減らすことができる。また、オペレーターが手を動かした距離を、自動的に何分の一かに縮小してロボットが再現するという小技が可能ですから、不器用な外科医にも細かい縫合ができるんだそうです。
筆者——しかし内視鏡で対応できる外科手術と、できない外科手術とがあるはずですよね。
兵頭——おっしゃる通りです。たとえば、レーザー・メスと吸引具で腫瘍を廓清したら終わり、といった術式ならお手の物なのでしょうが……。最近の話題は、韓国の病院で、この「daVinci」を使って、肥大した甲状腺を除去する手術を積極的に実施しているらしいことですかね。
筆者——甲状腺はノドボトケのすぐ下にあるものでしょう? それを全摘するのに、わざわざ内視鏡を使う意味があるのですか?
兵頭——たしかに、咽喉を切開してしまえば、手術も短時間で済むのでしょうが、人目から注視さやすい首に疵痕などが残ることを嫌う患者が、韓国には多いようなのです。それで、わざわざ脇の下から内視鏡を差し入れて、肩の筋肉の間をすりぬけるようにして、首まで到達させるそうです。
筆者——日本で「介護ロボット」が一向に普及しない理由ですが、たとえば、機械の力で被介護者を傷つけたり死なせてしまったりしたときに、関係者の「免責」範囲をはっきりさせる「統一ロボット安全基準」のようなものが、厚生労働省によって一向に定められないからなのでしょうか?
兵頭——それについては、わたしは不思議でならないのです。経産省が日本の実力も知らないで夢想していると思しい、スタンドアローンな自律ロボットのイメージに、人の生き死にと密着せねばならない厚労省が束縛されてしまう必要は、ないでしょう? オペレーターがその場についていないで、被介護者の面倒を全自動でみてくれる介護用ロボットなんて、厚労省は思い描いている場合ではないはず。省力化と省人化を混同して、「擬人ロボット」などを空想していたら、いつまでたっても介護の現場は救済されはしませんよ。
筆者——なるほど。外科ロボットの「daVinci」だって、外科医が動かさなければ、絶対にひとりでには動作をしない、他律的なリモコン・アームにすぎませんよね。
兵頭——ひとつの参考になると思いますのは、自動車のワイパーです。あれは直流12ボルトのモーターで駆動させていると思いますが、指で押さえたら、動きを止めることができる。それゆえ、あれで殺されたり病院送りにされた人など、おりますまい。比べて、自動車のウィンドウの電動開閉装置はどうですか? 毎年のように、死者やけが人を量産しているけれども、国土交通省が野放しにしたままというのは解せませんよね。ともかく、こっちのメカは、人の首を挟んでしまったときに、そこで止まってくれないわけです。おそらくこのあたりが、身体の不自由な被介護者がみずから操作してもOKな介護アシスト装置類についての、厚労省なりの安全基準の目安となるのではないかなぁと、わたしは個人的に思います。
筆者——介護アシスト用の非自律的なロボットなら、申請あり次第、すぐに保険の適用を認めてもよいということですか?
兵頭——「被介護者がその装置を利用する時に、法律の定める資格を有するオペレーターが1人以上、その被介護者に手の届く位置で終始、臨場していなければならないもの」というカテゴリーをつくればいいのではないでしょうか。そのカテゴリーで申請されたロボット風の装置類については、保険を適用したらよいのではありませんか。もちろん、それを使って事故が生じたときの責任は、そのオペレーターおよびオペレーター派遣業者が取るという条件付きでです。
次回に続く