澤充・日本大学名誉教授


 現在、日本の小学校では色覚検査は行われていない。実は10年前に事実上廃止されていたのだ——ということを知っている人は、どれくらいいるだろうか? 恥ずかしながら筆者は、2013年秋まで全く知らなかった。といっても、そこまで恥ずかしがることはないのかも知れない。なぜなら文科大臣でさえ知らなかったのだから。


 2013年4月15日に行われた衆議院予算委員会第四分科会で、民主党の笠浩史衆議院議員が「色覚検査が学校の定期健診項目から削除された件」について質問。これに答えた下村博文大臣は——


「私の子供の頃は色覚検査がありましたので、きょう委員から質問されるまで、その後これが中止になったということは存じ上げておりませんでした」


——と述べている(予算委員会議事録より)


 さて、小学校での色覚検査は、平成14年3月29日付の学校保健法施行規則改正で、学校の定期健康診断の必須項目から削除された。平成15年度から実施されたので、今年で10年になる。この改正に伴う局長通知では——


1:健康診断において、必須事項に加えて色覚検査を実施する際には、児童生徒および保護者の事前の同意を必要とすること。


2:教職員は色覚異常について正確な知識を持ち(中略)表示方法、学習指導、生徒指導、進路指導において、色覚異常に配慮を行うとともに適切な指導を行う必要があること。


——としている。ただ、あくまでも通知であり、検査に保護者の同意が不可欠であるため、現在、日本の学校において、色覚検査は事実上“廃止”されている状態にあるといえよう。


 なぜ、色覚検査は“廃止”されたのか? について書くと、人権、差別、日教組の政治活動について一冊の本が書けるほどのハナシになってしまうので、敢えて割愛する。ただ、“廃止”されて10年経った現在、様々な問題が噴出しているという。


 今回取材したのは日本眼科啓発会議記者発表会『学校で色覚検査が行われなくなって10年——色覚検査をめぐる現状と課題』。最初に取り上げる講演は『色覚の本質』。演者は日本大学の澤充名誉教授。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 ヒトは光の波長380nm〜700nmの範囲を色(=可視光)として認識します。紫、青、緑、黄色、橙色、赤のグラデーションで彩られたスペクトルがありますが、これらの色をヒトはどのように見分けるのでしょうか。もう少し踏み込んで説明すると、この波長の光が眼底の網膜に当たると、網膜の中心に分布する3つの錐体細胞が光を生体信号に変換します。変換された生体信号は、複雑な感覚処理を経て後頭部にある視中枢に到達し、初めて光を色として認識します。色覚異常とは、この光の認知システムのどこかに問題があるときに起きるものなんですね。


 3つの錐体細胞は、それぞれ「L錐体(赤を認識する)」「M錐体(緑を認識する)」「S錐体(青を認識する)」と呼ばれています。このうち、L錐体に異常があるのが「1型」の色覚異常で、L錐体が欠損している場合は「1型2色覚」、L錐体の部分的機能異常がある場合は「1型3色覚」と分類しています。同様にM錐体に異常があるのが「2型」の色覚異常で、同じように欠損と部分的機能異常により「2型2色覚」「2型3色覚」に分類します。一方、S錐体に異常がある場合は「3型」と分類します。


 先天的色覚異常のほとんどは、「1型」及び「2型」の色覚異常で、有病率は男性で4.5%、女性で0.2%です。これらの色覚異常は、色を見分けることが困難であること以外、あらゆる点で完全な視機能を持っています。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 有病率4.5%ということは、つまるところ男性のうち20人に1人……つまり、40人学級であればクラスに1人は色覚異常の生徒がいるということだ。現在は少子化により30人以下の学級も珍しくないのだろうが、それでも一般的な学校であれば学年に数人は確実に色覚異常の生徒が存在しているということだ。食生活の変化や運動不足などにより、小学生の肥満や生活習慣病が取り沙汰されているが、色覚異常の生徒は、ある意味でこうした特異な肥満児よりもポピュラーな存在といえるのかも知れない。