シリーズ『くすりになったコーヒー』
最初に「コーヒーは代表的な抗酸化性の飲料である」ことを思い出してください。
●一般に、癌患者が毎日コーヒーを飲んでいるとどうなるか?
健康な人が抗酸化性の食べもの(野菜と果実とコーヒー)を摂ることは癌の予防につながります。これはほぼ確立された病気予防法として受け入れられています。しかし、癌に罹ってからも抗酸化性の食べものを摂っていると、癌が増悪する可能性があるとの説が出てきました。この恐怖の仮説を唱えたのは、国がん研、東大、東北大など日本を代表する研究機関で、2012年のことでした(第280話を参照)。
●癌患者が飲んだ抗酸化薬を癌細胞が横取りして元気になる。
これが恐怖の仮説の原理です。専門家の間では以前から、抗酸化薬であるビタミンEやカロテンのサプリメントを常用していると、返って健康を損なうとの意見もあったので、恐怖の仮説は要注意事項として医学界に広く受け入れられたのです。丁度同じ頃、前立腺癌の分野では、あちこちに散乱していた抗酸化食のデータをまとめる努力がなされ、2013年に総説論文として発表されました
●お茶とコーヒーは前立腺癌患者に利益をもたらすかも知れないが、ビタミンEは不利益になる場合がある(詳しくは → こちら)。
そして更なる研究の必要性を指摘したのです。それから3年、また新たな情報が蓄積されてきましたので、ここで一旦まとめてみることにします。
●前立腺癌患者のコーヒー習慣は癌の悪性化を予防する(詳しくは → こちら)。
これが最新のメタ解析論文です(2015年)。この他にも3つのメタ解析論文(どれも2014年)があって、ほとんど同じ結論が書かれています。つまり、コーヒー習慣が前立腺の発癌リスクを下げるのですが、飲まない人と比べた相対リスクの低下は大きくありません。そこで、前立腺癌が死因となるような重篤な症例に絞ってみると、相対リスク0.76にまで下がるのです。ということは、コーヒー習慣は前立腺癌の悪性化を防いでいるということです。
更に個々の原著論文を読んでみますと、コーヒー習慣が転移を抑制したり死亡率を下げたりする以外に、抗癌薬耐性(効かなくなること)のリスクを下げているのです。そういう論文の1つを紹介しましょう(詳しくは → こちら)。
この論文では、更なる調査が必要とはいうものの、前立腺癌患者にとってコーヒー習慣は、治療後の再発や進行を抑えているともいうのです。
●日本人のデータも発表されている(詳しくは → こちら)。
これは東北大学のグループが宮城県で行った研究で、1日に3杯またはそれ以上飲む人が前立腺癌になるハザード比は0.63まで低下しています。では、再発や転移についてはどうかと言いますと、まだそこまで調べたデータは出ていないようです。
●コーヒーの効き目にカフェインは関係していない(詳しくは → こちら)。
この論文は、カフェイン代謝酵素遺伝子の多型がコーヒーの効き目に影響しているか否かを調べたものです。結果として、遺伝子多型の有無と効き目は関係ないことが解りました。つまり、前立腺癌の悪性化を抑えている成分はカフェイン以外にあるのです。
●煮出しコーヒーを飲んでいる人たちだけで、前立腺の発癌リスクが軽減した(詳しくは → こちら)。
煮出しコーヒーとドリップコーヒーの成分の違いは、前者にジテルペンを含むオイルが混ざっていることです。ジテルペンを毎日飲んでいると、1週間で高脂血症の状態になり、ずっと続ければ循環器系の病気リスクが高まります。
しかしその一方で、ジテルペンには血管新生を邪魔したり血管壁接着因子を減らす作用が知られています。どちらも抗癌作用につながる薬理作用なので、煮出しコーヒーを飲む群の発癌リスクが下がるという説明には、ぴったりの薬理作用と思われます。
●更に転移を抑制する水に溶けるコーヒー成分がある(第284話を参照)。
以上をまとめて図に描きますと、癌転移を抑制する成分が複数あって、それらを含むコーヒーを飲んだときに、効果を最大化して、副作用を最低化することができれば、コーヒー好きの前立腺癌患者にとって、それほど嬉しいことはありません。前立腺癌に限ってみれば、抗酸化性のコーヒーが癌を悪化することはなさそうです。
(第291話 完)
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