シリーズ『くすりになったコーヒー』
●抗酸化物質は健康な細胞を酸化ストレスから守っているが、癌細胞も同じ原理で守られている。
この話は前にもしたのですが、ほんとに大変(お騒がせかも?)な発見でした(第252話を参照)。4年前の2012年のこと、国立がん研究センター、東北大学、東京大学の共同プレスリリース(詳しくは → こちら)。
癌細胞は体の免疫機能をものともせず、大量のグルタチオンを作ってフリーラジカル(活性酸素など)を消去してしまいます。更に自らの増殖に必要な大量の乳酸脱水素酵素(LDH)を作っています。更に更に、健康細胞よりずっと多くのNrf2(第117話を参照)を蓄積して、抗癌剤が効かないようにしているというのです(詳しくは → こちら)。
Nrf2は、健康な人が癌を予防する最強の防御因子です。健康な人はNrf2を使って癌の原因となる酸化ストレスを消したり、発癌物質を排除したりするのです。でも、
●癌細胞は正常細胞の抗酸化システムをそのまま真似て、正常細胞よりもずっと強い生存力を獲得している・・・。
もしこれが当たっていれば、癌細胞の増殖速度が正常細胞より早い理由が解ります。抗癌剤に強いこともよく説明できます。ですが、こんなことがあって良いのか!?癌患者にとってはとんでもなく恐ろしい話ではないですか?
●「癌になったらコーヒーは止めろ」と言うのか?
癌になった人が、それまでは癌を予防するために飲んでいたコーヒーを飲み続けると癌が増悪する。そんなことが本当に起こるのだろうか・・・?もし起これば、癌がどんどん大きくなるだけでなく、転移もするだろうし、薬も効かなくなるかも知れない・・・。例えコーヒーを止めても、ビタミンEだとかカロテンだとかポリフェノールだとか、どれも抗酸化性だから、食べるものがなくなってしまうじゃないか!ここは冷静に考えないと本当に大変なことになってしまいそう・・・。
●プレスリリースから4年が経って状況に変化はあるか?
上記した日本発の研究の芽が、海外でも注目されています。2014年の総説によりますと、Nrf2の活性を抑制する抗癌剤の開発が始まっているとのことです(詳しくは → こちら)。
更に今年(2016年)の総説では、癌細胞のNrf2は抗酸化性酵素HO-1を作って悪性化するので、Nrf2→HO-1経路を断てば抗癌剤が効くようになる(詳しくは → こちら)。
さて、コーヒーの場合です。癌になったことのない健康な人が毎日3杯のコーヒーを飲んでいると発癌リスクが下がります(詳しくは → こちら)。これまでのデータによれば、発癌リスクの軽減に役立つ成分のうち、クロロゲン酸とNMPの2つがNrf2を活性化することが解っています。であるならば、
●「癌に罹った人がコーヒーを飲んでいると癌が悪性化する」ことになってしまう。
癌細胞がコーヒーの抗酸化成分を横取りして、抗酸化性酵素HO-1を作って悪性化する・・・プレスリリースはそう言っているのです。でもまだ、疫学研究や臨床試験などで立証されたわけではありません。
●癌患者がコーヒーを飲むと本当に癌が悪性化するのか、それとも改善に向かうか、コーヒーのランダム化比較試験やコホート研究は未だない。
散発的に論文は出ていますが、総説論文やメタ解析論文は見たことがありません。ですから正確な情報提供はできませんが、意味深で楽観的にも読みとれる論文もありますから・・・。
●前立腺癌の場合には、「コーヒーを飲む飲まない」と「発癌リスク」は無関係だが、飲んでる人は発癌しても重症化したり死亡するリスクは低い(詳しくは → こちら)。
少なくとも前立腺癌の場合には、「癌になってもコーヒーは効いている」ということになります。その他の癌ではどうなっているのか・・・速やかな調査を期待しますが、罹っても死ぬことはないなどとは・・・何とも危ない話です。
●この話の続きは、もう少し情報を貯めてから再度書くことといたします。
(第280話 完)
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