シリーズ『くすりになったコーヒー』


●遺伝病ファンコニ貧血(再生不良性貧血を含む)の人はコーヒーに注意(詳しくは → こちら)。


 この病気の原因はこうです。酸化ストレスで傷ついた遺伝子を、その細胞自ら修復できる遺伝子がないかまたは変異しているのです。自己修復遺伝子の名はFANCD2。ですからファンコニ貧血は遺伝病であることに間違いありませんが、酸化ストレスの多い生活習慣が発病を助長している可能性も見逃せません。




●コーヒー習慣は酸化ストレスを軽減するはずなのに、ファンコニ貧血に良くない理由とは何なのか?


 この論文で明らかになったことは、遺伝子FANCD2を欠損した細胞は、コーヒー抽出液またはコーヒー成分の1つカフェ酸が原因で早死にするようになるということ。早死にする直接の理由は不明ですが、遺伝子を修復する機能が低下していることを考えれば、遺伝子傷害のスピードアップが起こっているのかも知れません。


 ではコーヒーの何が遺伝子を傷害するのか・・・論文にはカフェ酸が犯人だとはっきり書かれている割には、実験はややお粗末のようです。コーヒー成分は沢山あるのに、カフェ酸だけを選んで実験しただけなのです。これは一体何故でしょうか?よく読んでみますと、その理由が見えてきます。古い文献に「カフェ酸はマウスの発癌リスクを高める」と書かれていたのです。ただし、そういう論文は、これもよく読んでみますと、使ったカフェ酸の量が尋常ではありません。普通の人がコーヒーを飲んだときの、体の中のカフェ酸の濃度の、実に千倍を超える濃度で実験が行われていたのです。


●どんなに安全だと言われる化合物でも、千倍も使えば毒になる!


 今時の生物学の実験で、こんなこと当たり前ですが、広い世界の何処かにはそうでもない研究者がまだまだ大勢いるのです。カフェ酸は一時期確かに発癌性が疑われ、国際癌研究機関も発癌物質にランキングしていました。しかしもう昔の話です。そうではなくて、コーヒーにはカフェ酸以外の発癌性物質がちゃんと入っているのです。


●アクリルアミドは遺伝子傷害性の発癌物質である(詳しくは → 第221話を参照)。


 論文の著者が何故アクリルアミドで実験しなかったのか?その理由も探ってみました。すると答えは余りにも単純なことでした。実はアクリルアミドの発癌性が見つかったのは今世紀になってのことなのです。カフェ酸の発癌性が書かれた論文はもっと前のものなのです。ですから今回の論文の著者は、古い順に文献を検索して、カフェ酸が見つかった時点で、検索を終了したのではないでしょうか・・・。論文を書くための実験だったともいえるのです。


 経緯は色々あって複雑ですが、コーヒーの何が原因であろうとも、ファンコニ貧血の人にとって、コーヒーは安心して飲めるものでないことだけは確かです。全貌が明らかになるにはまだ時間がかかるでしょうから、現段階ではこれだけは書いておくことといたします。


●ファンコニ貧血の人は(再生不良性貧血の人も)、取り敢えずコーヒーを飲まない方が安心だと私目は思います。


(第283話 完)



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