シリーズ『くすりになったコーヒー』


●アクリルアミドの発がん性を巡って諸説紛々です。


 アクリルアミドはコーヒーにも含まれている発がん性物質です。どの程度の発がん性かといいますと、国際がん研究機関(IARC)のリストに載っている評価が最も客観的だと思われます。その中身は3年前の2010年11月の記事に書いたとおりです。記事のなかで筆者がお願いしたことは、「そろそろ再評価しては如何ですか?」ということでした。その再評価が今月初めに出てきました。


●厚労省の評価は、「アクリルアミドの発がん性は遺伝子傷害性である」。


 実際のところこれまでと変わらない評価です。そして同省の食品安全委員会は更なる検討を続けるとのことです。本当に御苦労様なことですが、お上のやることはエンドレスなので、ここで思い切って筆者の再評価意見をご披露することと致します。


●コーヒーのアクリルアミドは安全である。


 図をご覧ください。



 IARCによれば、アクリルアミドは動物実験で遺伝子傷害性を示したので、ヒトに対する発がん性は、分類2A「ヒトに対しておそらく発がん性がある」となっています。今回の厚労省の評価は、このことを認めたということです。そして大事なことは、「遺伝子傷害性を示す物質については、摂取量がどんなに少なくても発癌リスクを否定できない」ということです。更にいうならばこうなります。


●アクリルアミドの発がん性は遺伝子傷害性をともなう可能性が高いので、ポテトチップでもコーヒーでも、食べても飲んでも安全な目安を定めることはできない。


 ですから、今後厚労省他の関係機関が、食べても安全なアクリルアミドの1日量を公表することはないのです。ですから毎日コーヒーを飲んでいて、アクリルアミドで発がんすることがあるのかないのか、自分で判断するしかありません。以下はそのためのヒントです。


 図をもう1度ご覧ください。コーヒーと臓器がんの疫学研究の結果です。それぞれの臓器がんについて複数の論文があって、それらをまとめたメタ解析論文も出ている・・・そういうデータだけを2013年8月の時点でまとめたものです。コーヒーを飲まない人の発癌リスクを1.0としてあります。


  1. 毎日コーヒーを飲んでいると、青色と緑色のがんになるリスクが下がる。
  2. 毎日コーヒーを飲んでいると、赤丸で囲んだがんになるリスクが上がる。
  3. その他のがんのリスクにコーヒーは無関係である。
  4. 赤丸で囲んだデータには、「熱すぎるコーヒー、過去の喫煙歴、コーヒー滓」の3つの交絡因子の影響が排除され切っていない。


 ということで、かなり遠慮がちではありますが、「疫学的にはアクリルアミドの発がん性は認められない」と言えるのではないでしょうか。赤丸で囲んだがんの場合、「アクリルアミドが関与しているのではないか?」との疑問が残りますが、他の交絡因子についての疑問も残されているので、現段階では決着がつかない・・・ということです。


 では「どう対応したらよいか」について考えてみます。


  1. 喉頭がんが気になる人は、熱すぎるコーヒーを飲まない。
  2. 昔喫煙者は肺がんリスクを抱えているので、コーヒーは1日2杯までとしておけば、リスクは限りなく1に近い。
  3. トルコ式などコーヒー滓を飲んでいる人は、食道腺がんのリスクが上がるので、ドリップコーヒーに替えるのがよい。


 さて、気休めではありません、もっと大事なことがあります。


●IARCが動物実験に使った化学試薬としてのアクリルアミドと、コーヒーのアクリルアミドの生物活性は異なる。


 化学試薬としてのアクリルアミドを動物に投与したときには、遺伝子傷害性の薬理作用が修飾されることはありません。一方、アクリルアミドを含むコーヒーの場合には、コーヒーに含まれている抗がん・抗酸化物質によってアクリルアミドの遺伝子傷害性が軽減されているはずです。もしそうなら何も心配することはありません。


 更なる気休めも紹介しましょう。アクリルアミドは焙煎でできてくる物質ですから、深煎りコーヒーに多く含まれています。もし心配ならば、いつも飲んでいるコーヒーより、一段浅煎りのコーヒーにすれば、その分だけリスクが下がるというものです。


●総じて言えば、コーヒーのアクリルアミドは安全である。


 では皆さん安心して、がんを予防するコーヒーを毎日飲むことに致しましょう。


(第221話 完)


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