シリーズ『くすりになったコーヒー』


●ポリフェノールは抗酸化性なので心臓病と癌を予防する?


 よくある健康食品の表示です。でも、ビタミンの抗酸化神話が崩壊したので、ポリフェノールだって役に立たないのでは?と、誰もが抱く疑問です。実際にポリフェノールが心臓病や癌を予防するなどという臨床試験は聞いたことがありません。あるのはポリフェノールを含むお茶とコーヒー、特にコーヒーを毎日飲む人たちに癌が少ないという「疫学データ」です(第175話を参照)。


 ではポリフェノールの抗酸化性が心臓病と癌を予防するという根拠は何処にあるのでしょうか?自称専門家に聞いてみますと、『抗酸化ビタミンを含む野菜や果物が癌を予防する』という疫学研究でーたから『簡単に想像できる』と言うのです。抗酸化ビタミンで失敗したリベンジをポリフェノールで・・・とでもいうのでしょうか。今回と次回は、ポリフェノールならば『簡単に想像できる』というその根拠が、実は根拠になっていないことを書いておくことと致します。


●某社曰く『我が社の健康食品は心臓病や癌を予防すると言われるポリフェノールを含んでいます。』


 この宣伝文句を書くために最低限必要な実験は図1の実験①と②です。種類の多いポリフェノールですが、より種類の多いフェノールの一部です。実験①と②を順に行えば、分析化学の『ものごとを突き詰めて考える』という論理の順番を守れます。いわば『極める』のですが、大から小へと順を追って極めれば、説明が楽になるというものです。



 フェノールとポリフェノールの違いは化学構造のちょっとの差によります。その差が抗酸化性の強さに関係するのです。フェノールの抗酸化性は弱いものですが、ポリフェノールならば、体内に生じるラジカル(活性酸素など)と直接反応してラジカルの毒性を消す能力が強まります。実験?が陽性になればフェノールの存在がわかりますが、抗酸化性は不明です。そこで実験?を実行して、抗酸化性が確認できれば、『単なるフェノールではなくてポリフェノールである』ことが解るのです。


 では、フェノールの有無を判定する実験「塩化第二鉄反応」について、コーヒー生豆をイメージしながら図2をご覧ください。




 コーヒー生豆を熱湯で煮出して作ったエキスを試験管に入れます(図2の左)。色は薄い黄緑色をしています。スポイトを使って塩化第二鉄試薬を滴下して振り混ぜます。するとエキスの色が濃い緑色に変色します(図2の中;右側の実物写真も参照)。フェノールと塩化第二鉄が反応して、水に溶ける緑色の色素に変ったのです。種を明かせば、生豆エキスに含まれているフェノールであるクロロゲン酸が発色したのです。


●次なる課題は、クロロゲン酸が抗酸化性をもつポリフェノールか否かということである。


 さあどんな実験をすればよいのか、次回のお楽しみといたします。


(第275話 続く)


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