シリーズ『くすりになったコーヒー』


 箱根小涌園にある温泉施設ユネッサンに「コーヒー風呂」があるとのことです(詳しくは → こちら)。


 ここでしか体験できない本物の「コーヒー風呂」では、低温泉水で粗挽き豆をネルドリップしているのだそうです。そのせいか、疲労回復・リラックス・美肌効果など期待できるのだとか…?!



●コーヒー風呂は人間様だけのものではない。


 漫画「ゲゲゲの鬼太郎」の目玉おやじは茶碗風呂が大好きで、普段は番茶風呂でも時にはコーヒー風呂に浸かるらしい。


 筆者も「きたろう」なので、一度はコーヒー風呂に入ってみようかとも思うのですが、まだ決心がつきません。コーヒー効果が上がるほどにドリップするとなりますと、どれだけ豆を使えばよいのか…考えあぐねているのです。「コーヒー滓で入れればよい」とのけち臭い話もありますが、体によい成分は全部抜けていますから、ゴミ溜め風呂に入るようなものなのです。くわばらくわばらです。


 そんなこんなでぐずぐずしていましたら、なんとなんと「セル・サイクル」という医学・生命科学の国際学術誌に「コーヒー風呂」が載っているではありませんか(図を参照)。むむ、「コーヒー風呂見参!」か……と思ったのですが…。



●実はこの絵は風刺画で、“the dose makes the poison”の意味なのだ。


 日本語で言うならば、「過ぎたるは及ばざるが如し」または、「クスリを逆に読めばリスク」、科学用語でなら、「薬の飲み過ぎは過剰服用で副作用」。


 事の起こりは、「コーヒーを飲む人は死亡リスクが低い(つまり長寿)」との疫学データでした(朝日新聞)。そして世界中の研究者が競って「コーヒーで長寿」の実験的証拠を探したのです。


 そこで見つかった証拠とは、「コーヒーは細胞の栄養素をリサイクルする(オートファジーと呼ぶ:第211話を参照)」という極めて魅力的な現象でした(新聞未掲載)。セル・サイクル誌の記者は、「事実とすれば大変なこと」と期待しつつ、「良い事ばかりとは限らない…」との慎重論を、コーヒー風呂の風刺画に託したのです。


●コーヒー風呂に浸かってコーヒーを飲むような習慣は、過激なオートファジーを起こして風呂酔いする。


 当分の間、「コーヒー風呂」は目玉おやじだけのものにしておくのが安全です。“一つ目”の妖怪は、目が回っても決して酔ったりはしないのです。


(第241話 完)


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