シリーズ『くすりになったコーヒー』
●「うちの子はコーヒー大好きなんですが、大丈夫でしょうか?」とよく訊かれる。
詳しく聞いてみますと、お子さんは小学3年生とか5年生とか、その近辺の年頃が多いようです。親御さんはカフェインの摂り過ぎが気になるそうです。お医者さんに尋ねると、「止めたほうがいいですよ」とのこと。万が一のことがあれば病院のせいにされかねませんから……。
この問いに対して、良くも悪くも確かな答えはないのです。間接的ではありますが、他に関係ありそうな事実から「予測する答」があるだけです。ですがこの際、「カフェインが子供に良いか悪いか」について自分自身よく考えてみることこそ、4月から始まる「食品表示の自由化時代」にお役に立つと思われます。
●医薬品に指定されているカフェインの1日標準投与量が、コーヒー・カフェインの安心安全な1日量を見積もる参考になる。
医薬品・カフェインの添付文書には、子供の標準投与量は書かれていません。そこで、子供にカフェインを飲ませるときの1日標準投与量の決め方として、いくつかの方法が提案されています。カフェインに限らず、飲み薬に広く応用されている方法で、どれも大人の数字から計算します。その1つ、Augsberger(アウグスバーガー)の計算式を紹介しましょう。
カフェインの場合、大人の1日投与量の上限は900mg(=0.9g)です。この数値を10歳の子供に換算してみましょう。
答えは0.666g(666mg)となりますから、大人(0.9g)の74%、約4分の3ということになるのです。ただしこの量は上限値ですから、毎日こんなに飲んだら大変です。
1日投与量の上限とは、「限られた1日または数日だけ飲む」ための量のことで、一応安全と言える量なのです。しかし、毎日続けて飲んでいますと心血管系に副作用が出る量でもあるのです。コーヒーは1杯に平均100mgのカフェインを含んでいます。これを1日5杯、カフェインにして500mgを超えて飲み続けますと、脳梗塞や心筋梗塞のリスクに影響が出始めます。
疫学調査によれば、健康に良いコーヒーの1日量は3.5杯です。中途半端な数字ですが、実際には朝・昼・夕の1日3回、1回に1杯ずつ、カフェインにして1回に100mg、1日300mgが安心・安全で、かつ健康に良いということです。数日間に限って飲む場合と、一生飲み続ける場合とでは、随分と差があるものなのです。
さて、Augsberger の式に戻りましょう。この式は医者の経験によって出来上がったものですが、信頼できる目安として実用化されています。この式をコーヒーに当てはめて、子供の年齢ごとに安心・安全な量を予測してみます。結果は表のようになりました。
小学校に通う前の子供の場合、ほとんど全員、苦いコーヒーが嫌いです。これは、「苦いものは毒」と言う本能に基づくものなので、ごく自然の流れです。子供がコーヒーを飲み始めるのは、早くても小学校に入ってからです。
表1によれば、6歳になった小学1年生の安心・安全なカフェインの量は、大人の半分に相当します。コーヒーなら1.5杯なのですが、端数は面倒ですから、切り捨てて1杯までとして下さい。その方が安心・安全に近づきます。8歳までの小学生、つまり小学校低学年の子供がこの範囲に入ります。コーヒーを飲むなら1日1杯が安心で、かつ病気の予防につながる量でもあるのです。
次に、9歳から12歳の小学校上級生の場合には、1日2杯が適切な量と言えるでしょう。ただし、第225話に書きましたように、コーヒーの効き目には大きな個人差がありますから、美味しいコーヒーでも飲んで気分が悪くなるような子供には、決して勧めてはいけません。
さて中学生ともなれば、計算上の適量は大人とほとんど変わりません。それでも16歳までは医学的には小児に分類されますから、好きなように飲みなさいとは言えません。ましてや「慣れれば美味しいから飲みなさい」などと勧めてはいけません。もし何かあっても、小児に自己責任は問えません。
(第235話 完)
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